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大塚裕史の刑法通信

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刑法コラム第121回

間接正犯の成立要件!?

刑法総論

2024.07.12

市販の論証本では、間接正犯の成立要件について、「主観的には自己の犯罪を実現する意思があり、客観的には他人を一方的に利用したこと」が必要であると説明するものが多い。そのため、受験生の答案をみると、主観面(正犯意思)から先に検討する答案が少なくない。しかし、間接正犯は、直接正犯と共に単独正犯の一種であり、単独正犯の場合、客観面(実行行為、結果、因果関係)から先に検討し、主観面(故意)はその後に検討するのが鉄則である。そうだとすると、主観面から先に検討する書き方は適切ではない。まずは、客観的要件、すなわち、他人を一方的に利用し結果実現過程を支配したといえるか否かきちんと論ずべきである。間接正犯の成否の判断にあたっては客観的要件の検討が中心になる。次に、主観的要件としては「故意」を検討する。その内容は、単に結果発生の認識・認容ではなく、他人を一方的に利用して結果を実現することの認識・認容が認められることを確認すればよい。試験の答案としてはここまででよく、正犯意思に言及する必要は全くない。他人を一方的に利用して結果を実現することの認識・認容があれば、通常は自己の犯罪を実現する意思はあるので、わざわざその点を説明する必要ない。そもそも、故意のほかに正犯意思が必要か否かは、学問的な議論の対象となる純理論的な事柄であるが、実益に乏しい議論であるため司法試験の答案で論述すべき内容ではない。

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