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治療用の管を抜くのは作為か不作為か!?

大塚裕史の刑法通信

刑法コラム第57回

治療用の管を抜くのは作為か不作為か!?

刑法総論

2023.2.6

「XがAの頭をビール瓶で殴ったので脳機能障害を生じさせたが、Aは救急病院で治療を受け一命を取り留め3週間の治療が必要と診断された。ところが、Aは、無断で退院しようとして治療用の管を抜いたので容態が急変し、脳機能障害により死亡した」という事例で、Xに傷害致死罪が成立するか。受験生の中には、「A自身が治療用の管を抜いたために容態が悪化して死亡したのであるから、介在事情の寄与度が大きく危険の現実化は否定され、Xには傷害罪が成立する」と解答する者も少なくない。しかし、治療用の管を抜いたAの介在行為は「不作為」であることに注意する必要がある。本問では、法益侵害の物理的危険を創り出したのはXの殴打行為である。それによりAは脳機能障害による死に向けて因果の流れが開始された。医師の治療行為により死に向かう因果の流れは一時的にストップしたが、Aが管を抜く行為により因果の流れは再開した。Xの行為により脳機能障害の物理的危険が初めて創り出され、Aはその因果の流れを止めなかっただけであるからAの行為は「不作為」である。介在行為が不作為である場合は結果に対する物理的寄与度がないため結果への寄与度が小さく、実行行為の危険がそのまま結果に実現したと評価できる。したがって、Xには傷害致死罪が成立するのである。

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