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大塚裕史の刑法通信

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刑法コラム第102回

なぜ裁判例では制限故意説が有力なのか!?

刑法総論

2024.02.16

犯罪事実の認識はあるが、自己の行為が違法であるとは思わなかった場合を違法性の錯誤という。その取り扱いについては様々な見解があるが、近時の裁判例と通説は、責任主義の観点から違法性の意識の可能性がなければ犯罪は成立しないとしている。問題はその場合の法律構成である。この点、裁判例においては、違法性の意識の可能性を(責任)故意の要件と考える制限故意説が有力である。これによれば、違法性の意識の可能性がなければ故意が否定されることになる。これに対し、通説は、違法性の意識の可能性を(責任)故意とは別個の独立した責任要件と考える責任説を支持している。これによれば、違法性の意識の可能性がない場合は責任が阻却される。なぜなら、違法性の意識の可能性は故意犯だけでなく過失犯においても必要であるから、故意から切り離された独立した責任要件と考えるべきであるからである。たしかに、違法性の意識の可能性がない場合には過失犯の成立を認めるべきではないので、理論的には責任説が妥当である。それにもかかわらず、裁判例が責任説を採用しないのは、責任説によると、超法規的に責任を阻却することになるからである。裁判所は、構成要件に該当する行為の処罰を否定する場合にはきちんと明文根拠が必要であると考える。制限故意説は、38条1項の規定に基づき故意を否定することによって刑事責任を否定できる点でメリットがあるのである。

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