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大塚裕史の刑法通信

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刑法コラム第105回

「民法従属性」がなぜ重要か!?

刑法各論

2024.03.15

財産犯に関する解釈問題の指針となるのが「民法従属性」である。民法従属性というのは、財産犯の保護対象となるのは民法上認められている財産権・利益の範囲に限るので、それについては民事判例の考え方を前提にしなければならないという原則である。それでは、なぜ民法従属性の考え方が重要なのであろうか。刑法の目的は法益の保護にあり、財産関係を規律しているのは民法であるから、民法が保護している財産権・利益を保護するのが刑法の役割である。民法上保護されていないような利益まで刑罰を使って保護するのは謙抑主義の原則に反する。このように、民法従属性は法益保護主義と謙抑主義という刑法の基本原則から導かれるものであるから、財産犯の問題を考えるとき常にそれを意識して欲しい。例えば、誤振込の事実を告げずに払い戻した行為に詐欺罪が成立するかという論点については判例と通説の間で見解の対立があるところ、少なくとも振込依頼人のミスに基づく誤振込があった場合、受取人には預金債権が成立しているというのが民事判例である以上、刑法上も預金債権が成立していることを前提としなければならない。したがって、受取人が誤振込金の払戻請求をする行為自体は適法であることから、その際に誤振込の事実を告げなかったという不作為だけが問題となることに注意しなければならない。

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