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中止犯の成立要件の論証について!?

大塚裕史の刑法通信

刑法コラム第68回

中止犯の成立要件の論証について!?

刑法総論

2023.05.15

市販の論証本の多くは、中止犯の成立要件のうち、中止行為性については「真摯な努力」が必要であるとして判例の立場から論証例が示されているにもかかわらず、任意性については主観説、中止行為と結果不発生との因果関係不要説と判例とは異なる立場からの論証例が示されている。しかし、これでは理論的な整合性に欠ける。判例なら判例の立場で一貫した論述をすべきであろう。コラム(67)で説明したように、判例は必要的減免の主たる根拠を褒賞・特典を与えることによって犯罪を予防する点に求めている。だからこそ、中止行為といえるために真摯性が必要とされる。なぜなら、真摯な努力をしていない者に褒賞を与える必要はないからである。任意性について判例は一般人を基準とする客観説を採用している。なぜなら、一般人が犯行を中止するような場合に当該行為者も中止したのであれば人並みのことしかしていないので褒賞の必要はないが、一般の犯罪者が犯行を継続するのに当該行為者が中止した場合は任意性を認めて褒賞を与える必要があるからである。さらに、判例によれば、中止行為と結果不発生との間の因果関係が必要とされる。なぜなら、中止行為が原因となって結果が発生しなかった場合だけ褒賞を与えれば十分だからである。中止犯の要件に関する判例の考え方の根拠に政策説があることに注意する必要がある。

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