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大塚裕史の刑法通信

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刑法コラム第83回

水平的分業と信頼の原則!?

刑法総論

2023.09.18

信頼の原則は、協働して作業を行う場合にも適用される(組織モデル)。組織モデルの中で、チーム医療のように、上下関係がない者の間で協働して作業を行うような場合を「水平的分業」の事案という。
例えば、大学病院において患者を取り違えて手術を行い傷害を負わせたという事案において、最高裁は、「病院全体が組織的なシステムを構築し、医療を担当する医師や看護婦の間でも役割分担を取り決め、周知徹底し、患者の同一性確認を徹底することが望ましい」としながらも、「これらの状況を欠いていた本件の事実関係を前提にすると、手術に関与する医師、看護婦等の関係者は、他の関係者が上記確認を行っていると信頼し、自ら上記確認をする必要がないと判断することは許され」ないと判示した(最決平19・3・26刑集61巻2号131頁)。患者の同一性の確認について、分業体制が確立していない場合は、他者の適切な行動を信頼することは許されないというのである。
これに対し、当該病院において、例えば、患者の同一性の確認は看護師が担当するというルールが確立され、それが周知徹底されている場合(分業体制の確立)には、麻酔医も手術医も看護師が患者の同一性を確認してくれるものと信頼することは相当であるといえる。このように、水平的分業の事案においては、分業体制の確立の有無が信頼の原則の適否のポイントとなることを十分理解しておく必要がある。

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