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大塚裕史の刑法通信

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刑法コラム第88回

他人のための事務か他人の事務か!?

刑法各論

2023.10.23

背任罪の主体は「他人のためにその事務を処理する者」である(247条)。これを「他人のために事務を処理する者」と誤読している受験生が少なくない。しかし、「その事務」となっているので、「他人のために他人の事務を処理する者」でなければならない。そもそも、背任罪は、委託者が自己の経済活動の範囲を拡張するために他人(受託者)に取引行為を担当してもらう過程で、その他人が委託者の財産に損害を発生させた場合を処罰するために立法された犯罪である。したがって、委託者(他人)と受託者は対内的な関係にあるので、契約当事者は背任罪の主体にならないのが原則である。そこで、「債務者・抵当権設定者(X)が債権者・抵当権者(Y)のために抵当権を設定したが登記を完了する前に第三者のために抵当権を設定し登記を完了した」という二重抵当の事例では、Xに背任罪は成立しないというのが有力説の立場である。しかし、判例は背任罪が成立を肯定している。両説は、Xが事務処理者といえるかをめぐる対立である。そこで、背任罪を肯定するのであれば、なぜ登記に協力する義務が他人の事務なのかを説明できるように準備しておかなければならない。この点、担保価値保全任務はYの事務であるが、Xは被担保債権を弁済するまでは担保価値保全任務の一部をYから委託されていると解すれば、Xは他人Yの事務を処理する者に当たり、背任罪が成立しうることになるのである。

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