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大塚裕史の刑法通信

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刑法コラム第107回

民法従属性と刑法的要保護性の関係!?

刑法各論

2024.03.29

財産関係を規律するのは民法であるから、民法上の権利・利益を刑罰を用いて保護するのが刑法の役割である。刑法は、民法が保護する権利・利益だけを保護すればよく、民法が保護していない利益を保護すべきではない(民法従属性)。例えば、XがYに賄賂として絵画を贈与したところYがこの絵画を処分してしまった場合、民事判例によれば、Xは不法原因給付により返還請求ができないことの反射的効果として絵画の所有権を失う。そこで、Xの所有権は保護されないので、刑法上もXを被害者とする横領罪は成立しない。 それでは、民法上、所有権は意思表示の時点で買主に移転するが(民176条)、刑法上は代金の全額ないし大部分を支払った時点に所有権が移転するとされているのは民法従属性に反するか。民法従属性は、民法の保護する権利・利益でなければ刑法で保護されないという原則であって、民法の保護する権利・利益のすべてを刑法で保護することを意味するわけではない。刑罰という制裁を用いるのは、民法の保護する権利・利益の中で、刑罰を用いてまで保護に値する権利・利益だけでよい(刑法的要保護性)。そこで、Xが土地をYに売却したが、Yが代金を支払う前にXがこの土地を第三者Zに売却したとしても(Yを被害者とする)横領罪は成立しない。これは民法従属性が認められる範囲内で刑法的要保護性を考慮するものであるから、民法従属性に反することにはならない。

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