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大塚裕史の刑法通信

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刑法コラム第112回

「占有」の有無をどの要件で論ずるのか!?

刑法各論

2024.05.10

窃盗罪における占有の有無に関し、『基本刑法』では「他人の財物」という要件のところで検討しているのに対し、市販の論証本では「窃取」という要件のところで検討しているがどちらが正しいのかという質問をよく受ける。235条は「他人の財物を窃取した」と規定している。窃取とは占有者の意思に反して占有を侵害し自己に移転することをいうので、窃取の客体は「他人が占有している他人の財物」である。したがって、占有の有無は「他人の財物」という要件のところで検討すべきであるというのが第1の見解である。これに対し、「他人の財物」という文言の中には占有という文言が含まれていないので、「窃取」という要件の中で検討すべきであるというのが第2の見解である。窃取とは他人の占有を侵害して自己に移転させる行為をいう以上、窃取行為を開始する前提として他人の財物を他人が占有していなければならない。第1の見解は「他人の財物」が窃取の客体であることから、第2の見解は「窃取」行為開始の前提要件として他人の財物を占有していることが不可欠であることから基礎づけられる。すなわち、占有を客体の側面から説明するか、行為の前提という側面から説明するかの違いに過ぎない。したがって、どちらが正しいのかというレベルの問題ではない。どちらも正しいので、答案はどちらの立場で書いても全く問題はない。

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