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大塚裕史の刑法通信

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刑法コラム第93回

共謀の射程に関する質疑応答!?

刑法総合

2023.11.27

  • 教授:今日は平成30年度の予備試験で出題された事例を検討しましょう。借金の返済を迫られている甲から相談を受けた乙が、甲の債権者Vを刃物で脅して債権放棄の念書を作成させることを提案し、甲が、「脅すだけだ。絶対に手を出さないでくれ」という条件を付けてこれを了承したという事案において、甲と乙にはどのような共謀が成立していますか。
  • 学生:2項強盗の共謀です。
  • 教授:その後、乙がVの胸倉をつかんでVの喉元にサバイバルナイフの刃先を突き付けて念書を書かせた場合、甲には何罪が成立しますか。
  • 学生:乙は「絶対手を出さない」という約束を破っているので、乙の行為は共謀の射程の範囲外となり、甲には2項強盗の共同正犯は成立しません。
  • 教授:乙の行為は暴行ですか脅迫ですか。
  • 学生:ナイフの刃先を突き付けているので暴行です。
  • 教授:仮にナイフで切りつけたのであれば相手方を物理的に抑圧する手段なので暴行になりますが、ナイフを突きつけただけでそれにより相手方の心理的抑圧を狙っているにすぎないので脅迫です。
  • 学生:でもナイフを突きつけたのだから手を出したことになりませんか。
  • 教授:「脅すだけだ。絶対に手を出さない」という条件は、強盗の手段を脅迫に限定するという趣旨です。そうだとすると、乙は脅迫をしただけなので乙の行為は共謀の射程の範囲内といえます。したがって、甲には2項強盗罪の共同正犯が成立することになります。

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