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「実行行為」と「実行の着手」の関係!?

大塚裕史の刑法通信

刑法コラム第12回

「実行行為」と「実行の着手」の関係!?

総論

2022.02.28

実行行為と実行の着手は密接な関連があるものの異なる概念である。実行行為とは、(形式的にいえば)構成要件該当行為、(実質的にいえば)結果発生の現実的危険性のある行為をいう。他方、実行の着手とは、未遂としての処罰が可能となる時点をいう。まず、実行行為を開始すれば原則として実行の着手はある。例えば、「人を殺」す行為を開始すれば殺人罪の実行の着手は認められる。もっとも、この原則には例外がある。例えば、患者を殺害する目的で医師が毒入り注射器を事情を知らない看護師に渡す行為は、殺人の間接正犯の実行行為ではあるが、看護師が患者に注射をしようとする時点まで殺人の実行の着手は認められないとするのが判例・有力説の立場である。これは実行行為の開始が実行の着手にならない例外的場合であるといえよう。次に、実行の着手があるからといって実行行為が開始されたとは限らない。例えば、窃盗罪の実行の着手はタンスの引き出しの中を探す行為(物色行為)の時点で認められるが、物色行為は窃盗罪の構成要件該当行為としての「窃取」行為ではなく、構成要件該当行為に密接な行為であるにすぎない。近時、判例(最判平30・3・22)は欺罔行為が未だ行われていないにもかかわらず、それに密接な行為が開始された時点で実行の着手を認めていることに注意して欲しい。

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