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不法領得の意思行為だけでは横領罪は成立しない!?

大塚裕史の刑法通信

刑法コラム第19回

不法領得の意思行為だけでは横領罪は成立しない!?

各論

2022.04.18

受験生の中には、「不法領得の意思の発現行為」があれば横領罪が成立すると考えている者が少なくない。しかし、252条1項は、「自己の占有する他人の物を『横領した』者」と規定している。「横領した」という文言からは横領行為だけでなく横領結果の発生が必要である。これは、199条の「人を殺した」といえるためには、殺人行為があるだけでは足りず殺人結果の発生が必要であることを考えれば容易に想像できることである。横領罪の主たる保護法益は所有権であるから、横領結果とは所有権侵害を意味する。不法領得の意思を発現する行為があっても、所有権侵害という結果が発生していなければ横領罪は未遂であり、現行法上、横領罪には未遂の処罰規定はないので、不可罰となる。かつて、司法試験の問題で、甲が乙に土地を売却したにもかかわらず登記名義が自己にあることを奇貨としてその土地を丙に売却したが、登記名義を丙に移さなかったという二重売買の事例が出題されたころがある。この事例でも、甲が土地を丙に売却する行為は甲の不法領得の意思を発現する行為であるから横領罪の実行行為であるが、丙に登記を移転しなかった以上(乙に対する)所有権侵害は認められないので不可罰となることに注意しなければならない。

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