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不法領得の意思の発現行為の「前提」とは!?

大塚裕史の刑法通信

刑法コラム第47回

不法領得の意思の発現行為の「前提」とは!?

刑法各論

2022.11.14

「横領行為とは不法領得の意思の発現行為をいう」というのが受験生の論証の定番である。ところが、このフレーズの持つ意味を正しく理解できていない受験生が少なくない。(委託物)横領罪は、委託されて占有している他人の物を勝手に処分する犯罪であるから、委託関係を侵害する犯罪であるといえる。したがって、横領行為といえるためには、委託の趣旨に反し権限を越えた処分であることが前提とされる。問題は、権限逸脱行為であればすべて横領行為と考えるのか(越権行為説)、不法領得の意思を発現する権限逸脱行為に限って横領行為と認めるか(領得行為説)にある。前説によれば、自己の占有する他人を損壊する行為も(権限逸脱行為と言えるから)横領に当たることになるが、判例・通説がとる後説によれば、損壊は不法領得の意思の発現行為とはいえないので横領罪は成立しない。このように、「不法領得の意思の発現行為」という横領行為の定義は、その前提として権限逸脱行為であることを前提としていることに注意する必要がある。委託の趣旨に反し権限を越えた処分でなければ、不法領得の意思の発現を検討するまでもなく横領行為とはいえないのである。近時、横領行為を「権限逸脱行為であってかつ不法領得の意思を発現する行為をいう」と定義する見解が有力になっているのはこのことを明かにするものといえよう。

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