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正当防衛には2つの顔がある!?

大塚裕史の刑法通信

刑法コラム第43回

正当防衛には2つの顔がある!?

総論

2022.10.17

刑法の論点学習において最も重要なことは見解対立の本質論を見抜くことである。例えば、正当防衛の諸論点で見解が対立しているのはなぜか。それは、正当防衛には2つの相対立する顔(側面)があり、それをどのように調整するかをめぐって意見が分かれるからである。実は、正当防衛は「権利行為である」という顔と「自力救済禁止の原則の例外である」という2つの顔を持っている。前者は、人間は本来生まれながらにして自己の法益を自らの力で守る権利(自己防衛権)を有しているということであるから、正当防衛は広く認めてよいということになる。これに対し、後者はそのような自己防衛権を社会契約により国家に委託した以上自力救済は原則として禁止されるが、公的機関の保護を受ける余裕のない緊急の場合に例外的に自己防衛権を復活させたのが正当防衛という制度であるということであるから、正当防衛は例外的にしか認められないことになる。正当防衛に関する判例実務の考え方は、「急迫不正の侵害」という要件に関しては後者を重視し、「防衛するための行為」、「やむを得ずにした行為」という要件に関しては前者を重視することによって、相異なる2つの要請を調和させている。司法試験頻出の論点である「正当防衛」に関して判例実務の考え方を答案に反映させるためには、こうした本質論をしっかり理解しておくことが不可欠である。

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