「海外で働くと誰もが日本の代表になる」
-竹下敦也- CABINET PLASSERAUD(キャビネ・プラスロー) フランス 日本国弁理士
弁理士を目指したきっかけ
海外特許出願を扱う部署に配属され、知的財産を体系的な知識と共に理解したほうが仕事として効果的で、またその方が楽しいと思い、弁理士を目指そうと思いました。そこでの仕事を将来的に何か形として残したい、と思ったことも理由です。
自習室で勉強していたとき、手帳に「弁理士になったら、知的財産の国際ビジネスをやる」と書いてみていましたね。
それで勉強のモチベーションを維持していましたし、また将来的にそのときの仕事を発展的に行いたく思っていました。
フランスを拠点とする楽しさ・厳しさについて
海外で働くと誰もが日本の代表になるという点が大きいと思います。知財に限らず、経済・政治・文化など一般的なあらゆる方面について質問がくるので、否が応でも日本を代表して語らなければならないことが面白くて魅力的です。 その反面、日本人として1人で判断をしなければならないので、間違えることなく判断し要点を伝えなくてはならない大変な面もありますね。
また、事務所内では英語で足りますが、事務所から一歩出てしまうと、フランス語を使わなければならないことは少し面倒ですね。現地でフランス語を習ったときは、初級クラスであってもフランス語でフランス語の授業を受けなくてはならないことが大変でした(笑)。
外国で活動するために必要なスキルについて
事務所受付前にて
外国では確かに語学も大切ですが、それ以上に本質を突くコミュニケーション能力が重要だと思います。私の場合は日本と欧州を繋ぐ架け橋の役割をしますから、大量の情報が行き来するなかで、事がうまく運ぶように要点を押さえてコミュニケーションをすることが必要です。
また、多くのプロジェクトを自分がリーダーシップを持って進めるプロジェクトマネジメント能力も必要だと思います。定常的に流れるプロセスだけでなく、新しいことをやることが多いですので、こういった能力も必要ですね。
弁理士の世界がすばらしいのは、知的財産は基本的に世界中同じフレームで動いていることです。特に欧州では日本と共通点が多いですし、差異が重要でない場合には、共通点を見抜くことが重要になると思います。通常の業務だとお互いにどこが共通の枠組みの範囲であるのかを理解し、それを伝えることも大切な仕事です。
必要なスキルを磨くためにするべきこと
日本国内で仕事をしていても、普段の業務において身につくスキルが外国でも応用が利くと思います。例えば、上司や他の部署が理解できるように伝えることや、プロジェクトをリーダーシップとともに行うことなどは、日本の仕事の中でもできますし、これをそのまま英語などの他の言語で行うということです。
日本の仕事は非常にきめ細かいプロセスを踏みますので、日本の仕事の中で本質的なコミュニケーション能力を磨いていけますし、これがそのまま海外でも通用すると思います。
外国制度の理解について
実務上、外国の制度について理解する必要がありますが、日本国弁理士として体系的な知識があれば、共通部分・差異部分を把握する事で理解を進めてくれます。欧州各国別々の法体系がありますが、弁理士の主な業務である権利化前についてはEPO(欧州特許庁)を使うことが多いです。権利化後の訴訟は欧州各国の法で扱われますが、侵害訴訟・無効訴訟において共通した判断も多いと感じます。また、ヨーロッパでは欧州統一特許制度が大きく動き出し、一つの手続きで権利を取得でき、一つの手続きで裁判が行われる方向に進んでいます。欧州では統一が進んでいるという点では、これから仕事をするうえで面白いのかなと思います。
第二オフィス前にて
また、フランスを拠点に活動していますが、ヨーロッパの各地で情報を得たり、事務所の同僚からも情報を得たりします。日本の代表であるからという理由で事務所の中でも情報が集まりやすいのはラッキーですね。
欧州において、日本の弁理士資格で代理業を直接行うことはできませんが、知的財産の制度はかなり似ており、その差異を理解すれば十分にコミュニケーションができるので、日本の弁理士の資格は仕事の面で非常に活きています。
また、欧州のクライアントや同僚から突然電話がかかってきて、日本の制度について即座に説明することもあり、日本国弁理士として在籍している価値を示す一つの場面だと思います。
これから弁理士を目指す方へ
技術とビジネスと法律が融合するところに知的財産があり、弁理士がいます。さらに知的財産の世界は国際性が非常に高いので、国際的な仕事をされたい方には弁理士は非常にお勧めの資格です。また、知的財産は日本の世界における競争力を高める上でも重要ですので、それに携われる点でも弁理士という職業には使命と意義があると思います。