LEC講義の復習と、条文の精読に没頭
S・Mさん
年齢 | 39歳 |
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受験回数 | 1回 |
職業 | 特許事務所員 |
出身校 | 東京大学大学院 理学系研究科 |
受講講座 | 1年合格ベーシックコース+アウトプット完成コース その他学習経験者向け講座 |
弁理士を目指した理由・きっかけ
前年に前職である研究職を辞して特許事務所に就職し、同時期に弁理士試験の学習を開始しました。もともと文系的な傾向があり、文章を読むことや書くことを好んでいましたので、弁理士業務の中核となる抽象的なアイデアである発明などを文章で表現するということに関して、私にはそのような技能への素養があると感じ、かつ、情熱を持って取り組むことができると思い弁理士を目指しました。前職の研究職は、非常に専門的で狭いテーマを突き詰めるものでしたが、弁理士業務では多種多様な技術分野にわたるため、現実に社会を動かしている広範な技術に関わることができるということも魅力でした。
LECを選んだ理由
前職を退職する時点では、弁理士試験がどのようなものかについてほとんど知識がありませんでした。そのような中で、弁理士試験の予備校についてネットで調べていたところ、LECが新宿エルタワー本校で初学者向けのガイダンスを行っていることを知り、これに参加することにしました。
宮口先生の1年合格ベーシックコースは、一発合格という明確な目標を掲げている点、一発合格という点で圧倒的な実績を有しているという点が魅力でした。宮口先生のお話は、現実的な現状認識に基づいて、その現状において具体的に何をどれだけやれば一発合格できるのかというものであり、コンセプトが明確で進むべき道がはっきりしていると感じました。実際にそうであることを、合格できた今も感じています。さらに、ガイダンス後には安西先生から試験や弁理士業務についてのお話を聞かせていただき、そのことも弁理士への道へ進むことについて多少の逡巡があった気持ちの後押しとなりました。
主に受講したコースや講座の名称と受講した感想
弁理士試験についてゼロからの出発でしたが、1年合格ベーシックコースの入門講座のおかげで、その後のより実践的な勉強への下地ができると同時に、日々の予習復習のサイクルを確立することができました。入門講座ではありますが、内容が過度に咀嚼されることなく、条文や青本などの文言をできるだけ使用しつつ、エッセンスを効率的に取り込めるような構成になっていると感じました。弁理士試験は、結局のところ、条文や青本などの「文章」を正確に理解し、いかに忠実にこれを頭の中に入れられるかにかかっていると思うので、入門講座の時点からこの「文章」にふれることで、理解を進めつつ「弁理士試験の言語」に慣れるという作業を、初期段階から効率的に行うことができたと感じました。初学者にとっては、例えば青本の文章などはとても難解ですが、宮口先生の講義では非常にテンポよくエッセンスを話してくださるので、難解な文章への抵抗を感じることなく、すんなりと法体系の中に入っていくことができました。また、宮口先生は、理解の助けになるエピソードを数多く話してくださり、これは、試験直前の学習段階や実際の試験中でも折に触れて随所で役立つものでした。
利用して良かったLECのテキスト・過去問集等の名称と具体的な感想
論文基礎力完成講座のテキストは、重要トピックの論文例が一行問題の形で網羅されているもので、論旨や趣旨が簡潔に記述されており、試験直前まで何度も読み返し、できるだけ暗記しました。この講座を受講している時点では、初学者の私ににとっては、論文試験はまだまだ先のことではるか遠くにあるものに感じていましたが、学習開始から2ヶ月という早い段階で論文試験の下地となる知識に触れることで、目標を見据えて効率的に論文試験への準備を開始できたと感じます。実際の論文試験では思考力が試されますが、論文試験では無から文章を創り出すわけではなく、頭にあらかじめインプットした文章を問題に合わせて論理的に並べるものに過ぎないと思います。そのようなインプットは、試験までの長期にわたる学習の中で継続的に頭に入れてゆくものだと思いますが、そのインプットの作業を非常に早い段階で開始できたことが、一発合格への効率的な学習のカギになったのではないかと感じています。
本試験で条文以外にも青本・審査基準・判例などの知識が必要です。これらをすべて1年で学習することは不可能に近く、非効率です。短答アドヴァンステキストは、過去の試験問題や傾向に基づいて、青本などの要点が効率的にかつ網羅的にまとめられていると感じました。1年で合格を目指すには、ある程度学習対象を切り捨てることが重要だと思いますが、短答アドヴァンステキストに載っていない知識については、安心して切り捨て、重要トピックに集中して学習をすることができました。短答試験の直前1週間は、短答アドヴァンステキストの復習と、過去問のみをやっていました。
受講した答練や模試の名称と受講した感想
短答実戦答練・短答公開模試は、2ヶ月ほどにわたって本試験と同様の形式で毎週答練を行うので、知識の定着に役立つことはもちろんですが、実際の試験中の時間配分や、緊張している中でいかにして集中力を上げるのかというテクニックを身につける上でも、非常に重要でした。また、毎週1回行われる答練に向けて毎週の学習を組み立てる必要があるため、限られた時間の中で、濃度の高い学習を自分に強いるためのペースメーカーとしての意義もありました。難易度も本試験と同程度に設定されていると感じ、本試験の基準点である39点以上を取ることにこだわって学習しました。答練や模試を受けるたびに少しづつですが自信を深めることができました。この2つをくぐり抜けることによって、相当な実力が付いたと感じています。
論文について勉強し始めの頃から、漠然とした自信があったのですが、開始当初の論文合格答練では思うように得点が伸びず落ち込みました。採点者には多様なことを指摘していただきましたが、繰り返し指摘された中で特に重要だと感じたのは、定義をちゃんと書くこと、問題文の単語を用いて当てはめること、及び、結論をちゃんと書くことでした。論文試験は、自分が問題を理解しておりかつ答えをわかっていることを文章を介して採点官に伝えなくてはならないものであり、これらのことは論文試験の本質上当たり前のことなのですが、添削で繰り返し指摘していただいたおかげで、そのことに気づくことができ、自分なりに論文の書き方を感得することができたと思います。
短答式試験対策で気をつけたこと
自分なりの課題として設定していたことは3つあります。
1つ目は短答試験の過去問15年分を3回繰り返すことです。論文対策との兼ね合いから短答対策は遅れ気味だったので、年末までにやっと短答の過去問15年分を1周することができました。年明けからこつこつと2周目、3周目を行いました。3周目が完了したのは、短答本試験の2週間前ぐらいでした。2周目完了時点で、頻出問題とそうでない問題について、自分なりの感じを掴めていたと思います。
2つ目は答練・模試に全力を傾けることです。年明けから毎週行われるので、学習のペースメーカーとして使用することができました。すなわち、週末に行われる答練・模試のための準備を1週間かけて行うという形で学習を進めました。学習は条文を基礎として行い、最終的には1週間で特実意商条不著に関する条文を一通り確認できる程度のスピードが付きました。
3つめは、答練・模試で合格点をキープすることです。LEC答練や模試は、問題の難易度設定が本試験に近いと感じていたので、この答練・模試で合格点が取れないようなら合格できない!、と自分を追い込んで、真剣さを上げて学習をすることができました。
短答対策は、かなりの部分を条文の理解に費やしました。条文の正確な理解は弁理士試験の根幹なので対策として間違ってはいなかったと思いますが、比重を置きすぎた点はあったかなと思います。前述のとおり、試験では条文以外に青本・審査基準・判例の知識も必要なので、これらをまとめてある短答アドヴァンステキストの復習をもう少し早く始めてもよかった気がします。また、短答公開模試を受講して気づいた点は、必ずしも全法域を完璧にマスターする必要はなく、無論、短答を突破するためには各法域についてかなりの知識量が必要ですが、特実意商条不著の各法域で満遍なく平均点を取ることができれば、全体としてかなり上位の得点を得られるという実感を得ました。
論文式試験対策で気をつけたこと
論文対策はかなり早く始めたと思います。全くのゼロであった時期から1ヶ月後には、答案用紙を使用して過去問を解いて実際に書いていました。しかしながら、この頃は論文の基礎もわかっていなかったので、自分でひねり出した文章を適当に書くなど、およそ本質的ではない学習でした。学習開始から2ヶ月後には論文基礎力完成講座が始まりました。当該講座では毎週実際に論文を書く機会があるので、格別に有意義でした。この講座では問題が前もって送付されているので、毎回予習して挑み、極端な場合には、解答も見てそれを暗記して挑みました。弁理士試験全般に言えることだと考えていますが、特に学習初期には、自分なりに考えることにはあまり意味がない気がします。ひたすら模範解答を覚え書き写すことが一番有意義なのではないかと思います。
夏に、宮口先生の最判道場を受講しました。初学者の私にとって判例は、悪文だと思えるほどに難解でさっぱりわかりませんでしたが、判例道場で半分無理やりにでも主要判例に網羅的に触れることで耐性が付き、本試験前までに主要判例をだいたい理解している状態にまでもっていくことができました。論文過去問については、ゴールドWeb講座の「宮口聡の『理想と現実』答案 論文過去問15年分+α5年分」で学習しました。 学習法としては、まず問題文を読んで自分なりに答案構成を行い、宮口先生の模範解答を見て修正する、ということを繰り返しました。宮口先生は、とても楽しそうに論文を解答なされるので、こちらも論文を解く醍醐味を味わうことができ、論文を好きになることができたと思います。年末までには、やっとのことで過去15年分の特実意商について一巡することができました。短答本試験が終わったあとから論文の過去問の2周目を始めて、本試験2週間前までに、なんとかこれを完了できました。
口述試験対策で気をつけたこと
論文本試験後1ヶ月間は、青本や審査基準を見直すことに重点をおいて学習しましたが、かなり軽めでした。8月から勉強会に参加して、毎週末に行われる実戦形式の演習に備えた勉強を開始しました。基本的には口述試験の過去問を繰り返すこと、条文を暗記すること、趣旨を暗記することをひたすら行いました。特に、口述試験の緊張状態の中で瞬発的な思考力が試されるパネル問題におそれを抱いていたので、なるべく多くのパターンに慣れておこうということに重点をおいて対策をしました。
通学、または通信での受講のメリットとデメリット
通学を選択しました。仕事場から30分ほどだったこともありますが、電車に乗りながら勉強することもできたので、通信と比較して時間的なロスはほとんどなかったと思います。通学だと、一緒に勉強する受講生がたくさんおり、緊張感のある中で勉強をすることができるので、通信よりも集中度や密度が高いのではないかと感じます。さらに、受講して帰宅後にすぐに復習することで学習効率を上げることもできたと思います。通信だと、受講と復習がどちらも家などで行うため、両者のケジメがつけにくく、復習をおろそかにしてしまうおそれがあるのではないかと感じました。
通学のデメリットとしては、自分のペースでできないということはあるかもしれません。しかしながら、むしろ、自分の学習速度を通学に無理やり合わせる必要もあるため、ペースメーカーとして有意義であったと思います。
受講したゼミや道場、単発講座の名称と受講した感想
宮口先生の最判道場を受講しました。夏の時点ではまだ知識量が絶対的に足りなかったため、ちんぷんかんぷんなものも多かったですが、本試験を経験した今からしてみれば、どれも重要判例ばかりで知っていなくてはならないものばかりでした。そのような重要判例について、この時期に一通り教わり、自分なりの理解をしようとしたことは、やはり重要であったと思います。判例を通じていろいろな理解が総合的に深まる点もあるので、この道場を受けた利点は、特に本試験直前の時期に実感しました。
論文直前講座として、芦田先生の論文100のポイント直前総括道場を受講しました。この道場では、論文試験で頻出するいわば「型」について、数多くの問題を確認することができました。非常に広範囲のトピックについてシンプルにパターン化されているため、基本的な事項を問われることが多い最近の論文試験には、特に有効だと感じました。残念ながら時間がなく、論文試験直前にこのパターンを付け焼刃で必死で覚えただけですが、このようなパターンに慣れ親しんでおけば、項目落ちを防ぐことができ、得点が安定するであろうと感じました。
仕事や学業、家庭と勉強の両立のコツ・時間活用術など
初学者向け講座を受講開始したすぐ後に転職をしたため、新しい業務を学びつつ仕事をしなければならず、弁理士試験に向けた学習を行う時間は限られていましたが、学習方法として以下のことを決めていました。
1つ目は、LECの講義を受けた後は、必ずその日のうちに復習することです。特に宮口先生の講義は非常にわかりやすいので、かなり難易度の高いテーマでもスッと入ってきて理解した気になることができますが、真に理解し記憶として定着させるためには、自分で主体的に講義内容を反芻する必要があります。そのため、私は講義内容のうち主要な部分を、手書きでノートに書き写すという復習をしました。テキストを単に読み直すという復習法も考えられますが、これだと漠然と字面を追っただけで終わってしまうおそれがあるため、面倒でも手書きで書き写すことで、例えば条文の構成を細かく確認することができ、自分がいかに講義を理解していなかったかを実感することができ、理解を深めることができました。
2つ目は、週に25時間を勉強に充てることです。幸い仕事が激務というほどではなかったため、出社前・昼休み・帰宅後の時間に週末の時間を合わせることで、週に25時間の学習時間は確保することができたと思います。ただし、秋ごろに「短答受かれば御の字だな」という気分に陥ったため、勉強時間が少なかった時期がありました。
今、合格して思うこと
合格発表後は、嬉しいというよりはホッとした気分でした。本試験の時点では合格できるレベルの知識は得ていると感じていたので、もし落ちたら次の1年間に何をすればいいのかわからない、ただ無駄な時間を過ごすことになってしまう、という恐怖があったためだと思います。ただ、本試験ギリギリまでは、実際に受かることができるとは考えていませんでした。短答試験にしても論文試験にしても、本試験1ヶ月前に行った密度の濃い学習によって、ギリギリでなんとか合格レベルにまでもっていくことができたと感じています。特に一発合格を目標とする場合には、「何を学習すべきか」を考えることに時間を費やして、効果の薄い学習を行う余裕はないと思います。他のことに手を出す余裕がなかったこともありますが、LECのテキストとカリキュラムに従って、余計なことはしなかったため、必要なことに貴重な時間を集約することができました。合格のためにすべきことを短期間で行うことができ、合格までひたすら濃密な学習を積み重ねることができました。
弁理士になったらこんなことをしたいということは試験勉強中にいろいろと考えていました。もともとアカデミックな傾向があり、試験勉強中に知財関連法の奥深さに触れた気がしているので、判例や国際的な知財状況などを積極的に学んで、国内だけでなく海外も含めた知財界の成り立ちについて、より深く体系的な理解を進めていきたいと考えています。具体的には民法や、アメリカの知財法などについて勉強を続けたいと考えています。実務経験を積み重ねるだけではなく、このような勉強を継続することで、弁理士として自分を個性化できるような独自のものを早く見つけたいと思います。
これから弁理士を目指す方へのメッセージ
弁理士を目指す理由は人それぞれだと思いますが、弁理士になる能力と意欲があると感じているのであれば、合格できる試験だと思うので、ぜひがんばって合格していただきたいです。弁理士になることで、弁理士業務を行うことができるだけでなく、いろいろな可能性が開けると思います。「patent attorney」と名乗ることができるということは、海外で活躍する場を広げる上で強力な足掛かりになると思います。
弁理士試験は、長期間にわたって継続的な学習を要する上に、全体を見通せるようになるまで時間がかかると思います。出口が見えない中で次から次に現れる新しい知識を延々と学習し続けるような時期が長く続くと思いますが、出口はあります。LECの講義を受けて、復習をちゃんとやって、答練を全力でこなし、かつ過去問を解くことでいつの間にか実力がついていると思います。
私は学習がある程度進んで合格のために必要とされるものがわかってくると、一発合格は簡単なことではない、多分無理だろうなと思うようになりました。しかしながら、年明けからの短答の答練を通じて条文と短答アドヴァンステキストを繰り返しひたすら復習した中で、自分の実力についての自信が徐々に生まれてきました。また、短答の答練でギリギリながらもなんとか合格点以上をキープすることができていたので、「これなら受かるかもしれない」という期待に基づいて、高いモチベーションをキープすることができました。
近年の合格率から見て、実力があれば合格できる試験なのではないかと思います。手ごたえのある努力を継続できれば、実力がつきます。学習している間は苦しいですが、実力が付くと勉強することがさらに楽しくなってくると思います。自分を信じて、どうか頑張ってください。