1. 経営法務の意義
人手不足の中小企業では、社長自らが先頭に立って、営業や仕入を行っている会社さえあります。ですから、大企業と違って、有能なスタッフをたくさん抱えている中小企業などそう多くはありません。社長が大切な経営決断をするにあたって、サポートできる人は周りにたくさんいないのです。
でも、社長は会社そのものです。社長のうかつな口約束が、会社をピンチに陥れる可能性だってあります。念には念を入れて、多大な時間と費用をかけて契約書を作るのは、このような理由からなのです。
経営法務とは、企業活動を行うにあたって必要な法律(ルール)です。ルールとは、あらかじめ知っておくのがベストです。それは「相手の機先を制する」ことになりますし、「後でしまった」と後悔しなくてすむからです。
もし、あなたが中小企業診断士として、中小企業経営者の身近な相談役を目指すつもりなら、きちんと経営法務もマスターしておくに限ります。
2. 経営法務で学ぶこと
1、企業の成長ステージ別に関わる法律
定款→設立→各種届出といった事業開始時の手続きプロセス(会社設立と登記)を始め、事業形態(個人、有限、株式)の選択や変更、会社運営のための必須知識(株式会社の機関、株主総会の手続き、議決権の効力)を学びます。さらに、企業の成長ステージ別に必要な知識(例えば、誰にどれくらい株を割り当てるかといった資本政策、企業買収・合併、廃業するにあたっての会社整理等)等を学びます。
2、資本市場に関する法律
ユニークなアイデアと大量の資金で、急速な成長を目指すベンチャー企業は、その資金需要を借入(間接金融)でなく、投資(直接金融)によってまかないます。ここでは、株式公開(IPO:イポ)の手続き、ディスクロージャー(情報開示)、証券取引法等について法的な側面から理解を深めます。 あわせて、企業は誰の物かといった企業統治(コーポレート・ガバナンス)の問題についても理解を深めます。
3、日常の企業活動に関する法律
契約の種類(売買契約、請負契約等)、物権や債権、その種類と効力等、企業間の日常の取引に不可欠な知識を学びます。さらに、公正かつ自由な競争を確保するための独占禁止法、故意・過失にかかわらず製造者の責任が問われる製造物責任法、販売促進に関わる景表法(不当景品類及び不当表示防止法)等の、企業活動を行うにあたって、企業が守らねばならない消費者保護関連の法律を学びます。
4、知的所有権に関する法律
中小企業やベンチャー企業のユニークな製品、技術、ビジネスモデルなどの知的所有権、企業の営業秘密(トレードシークレット)を守るためのさまざまな法律を学びます。
3. 1次試験の出題例
- 令和6年度 第8問
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会社法が定める株式の併合と株式の分割に関する記述として、最も適切なものはどれか。
なお、本問における株式会社は取締役会設置会社であり、種類株式発行会社ではないものとする。- ア 株式の併合および株式の分割を行う場合、いずれも、株主総会の特別決議による承認が必要となる。
- イ 株式の併合には反対株主の株式買取請求権が定められているが、株式の分割には反対株主の株式買取請求権は定められていない。
- ウ 発行可能株式総数が100株であって、発行済株式総数が50株の株式会社が、1株を10株とする株式の分割をする場合において、発行可能株式総数を600株とするときの定款変更は、必ず株主総会決議の承認を得なければならない。
- エ 発行可能株式総数が900株、発行済株式総数が300株の株式会社が、2株を1株に株式併合する場合、当該会社が公開会社であっても、効力発生日における発行可能株式総数を変更する必要はない。
経営法務 令和6年度 第8問の解答: イ