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私益を公益に昇華する法律・会計専門職となるために

山口 達夫氏 日本司法書士会連合会副会長/日本司法書士政治連盟名誉会長/司法書士

聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役

司法制度改革を経て、司法書士は一定の条件のもと、簡易裁判所の訴訟代理権を得て、国民にとって身近な法律家としてよりいっそうの活躍が期待されている。
身近な法律家とは何か?を問い続け、司法書士として30余年第一線でご活躍されている山口氏に、これからの司法書士像についてお話いただいた。


■ 企業内で働く法律会計専門職の増加

反町

現在、企業の中で働く弁護士が400人弱くらいいるようで、その数は年々増えているようです(※)。弁理士についても、企業で働く弁理士は以前からかなりの数がおり、その数は年々増えているとのデータが特許庁資料にあります。それらに比べると、企業で働く司法書士は少ないと感じます。独立開業だけではなく、大きな組織で働く人が出れば司法書士界全体の仕事の幅も広がります。司法書士にも、さまざまな分野で活躍していただきたいと思います。

山口 達夫氏 日本司法書士会連合会副会長/日本司法書士政治連盟名誉会長/司法書士

山口

そのお考えには啓発される点が多々あります。

反町

弊社では毎月、弁理士の資格説明会をどこかの支社で実施しておりますが、先般では参加者30名の予測に対して、参加者50名でした。昨秋からの世界的大不況の影響もあって、日本のメーカーの現場では、大きな変化が生じており、弁理士への人気が上がっています。また一般に資格取得に積極的な方が増えてきています。以前であれば、資格を取って独立開業という方が多かったのですが、ここ最近は、勤務先でキャリアアップするために資格を取ろうという方が増えており、資格業界にも地殻変動が起きていると感じます。

山口

司法書士の世界に長年住んでいる私は、おっしゃられたように、最近の変化は、何か圧縮された時間という中で生起していると感じます。私の知人で、中小企業の社長をされている方がいるのですが、倒産、撤退していく企業が多い今、事業を離れても個人として生き延びていく方策は何かといった従来にはあまりなかった相談を受けました。

反町

最近、弊社の資格説明会には、企業の幹部クラスの方もかなりお越しいただいています。企業はもとより自らも生き残るために、資格取得をお考えになる方が多いのだと思います。

■ 利益の帰着点は国民に

山口

私がこれまで司法書士としていろいろ経験してきて一番感じることは、「大きく計算することが大事」であるということです。つまり、“自分のため”、“家族のため”という身の回りの計算にとどまらず、もっとその先の地域の人、市民、国民まで意識して計算することが大事であるということです。私は、司法書士に限らず、他の法律・会計専門職も、その使命を踏まえ、大きく計算できるよう、利益の視野を広げることを意識しなければならないと思います。

山口達夫氏、反町勝夫対談

反町

私も山口先生と同じ考えです。ついつい自分たちの利益だけを考えがちです。人間は目標を高く掲げないと、大きく成長しません。

山口

私は、利益の視野を広げて計算を大きくしなければならないという思いに至ってからは、最終的な利益の帰着点を国民に置き、「国民に喜んでもらうために」という一心でやってきました。さらに、8年ほど前からは、弁理士や行政書士、税理士の方々と法律・会計専門職同士ということで集まり、さまざまな制度や問題点について話し合う機会を設けようと呼びかけてきました。そのようなこともあって、今では、さまざまな法律・会計専門職の方と親しくさせていただいています。確かに、各々の専門職の利益も大切ですが、専門職ごとに動いているだけでは限度があり、大きなことを成し遂げにくいでしょう。やはり、専門職ごとでも「計算をできるだけ大きくする」ことを心がける必要があります。それを私は「私益を公益に昇華する」という言葉で表しています。司法書士の利益ばかりを考えるのではなく、日本の利益のためにやるという観点に立てば協力の幅が広がるとの信念を持つようにと若い人たちに言い続けています。

■ 法律・会計専門職の連携が大切

反町

素晴らしい理念です。山口先生は、理系の工学部出身でいらっしゃるにもかかわらず司法書士になられ、日本司法書士政治連盟でもご活動されるなど多岐に渡っていらっしゃいます。

山口

法律・会計専門職の制度は、最終的に法律制度に仕上げないと現実化しません。われわれ司法書士に関する法律は、議員立法だけではなく、内閣法もあります。日本のためになることをする、日本のためになる選択をする、といった信念を持ち、どうすれば日本のためになるかとよく考え、時代の流れや各制度の根本をよく把握して活動することが前提になります。

反町

司法制度改革を経て、徐々にそのような考えが浸透してきました。法律・会計専門職全体を見ていくことが重要であり、例えば弁護士の問題は司法書士の問題でもあり、行政書士に何か問題があれば法律専門職全体の問題となりましょう。そのための司法制度改革でもありましたし、垣根を低くして、お互いに影響しあうことの必要性が見えてきたのではないでしょうか。

山口 達夫氏 日本司法書士会連合会副会長/日本司法書士政治連盟名誉会長/司法書士

山口

おっしゃる通り、法律・会計専門職同士の連携が強くなってきました。私は国を動かすべく、「法律自由職業種間団体」というようなかたちで、法律・経済専門職を10万人連携させるという夢がありました。

反町

それはすばらしいお考えです。

山口

お互いに業界・団体の問題点を話し合うことは重要だと思います。私は行政書士の資格も持っていて、その分野の仕事もしてきましたが、行政書士のコンプライアンスなど組織的な部分は、まだ成熟が足りないところもあると感じています。

反町

国民の立場から見れば使い勝手のよい司法を作るために、各法律・会計専門職の独占業務分野の延長線で重複部分する部分が生じたら、その分野では、できるだけ管轄は共同にする、共管分野として、協力していくべきだと考えますが。

山口

そうですね。登記に関してだけでも、毎日のように役所から通知や通達がきます。その膨大な資料は、各分野の専門性を持ち合わせないと、ただ読んだだけでは本当に理解できません。各分野、それぞれ精通した者が業務の形態をつくっていくべきだと思います。

反町

先生には今後も司法書士界にとどまらず、専門職全体のためにもご活躍いただきたいと思います。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

※ 日本組織内弁護士協会調べ。

≪ご経歴≫

日本司法書士会連合会副会長/日本司法書士政治連盟名誉会長
山口 達夫(やまぐち たつお)
1967年東京大学工学部産業機械工学科卒業。1969年同大学大学院修士課程終了(工学修士)。民間企業にて開発設計に携わった後、1975年司法書士登録。2008年3月、東京都立川市にて司法書士山口達夫法律事務所を開設。現在、日本司法書士会連合会副会長、日本司法書士政治連盟名誉会長。他にも社会活動として、社会福祉法人隆山會理事、社会福祉法人博泉会理事、日野市まちづくり会議会長 等を務める。

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