司法書士活性化にむけて
山田 猛司氏(社団法人東京公共嘱託登記司法書士協会理事長/東京経済大学現代法学部大学院非常勤講師/成蹊大学法学部不動産登記法非常勤講師/駒澤大学法学部法学研究所指導員)
聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役
2003年には、司法書士の従来からの業務である登記業務に加え、簡易裁判所の訴訟代理権が与えられるなど、活躍の場は広がっている。そのような中、大学講師・元試験委員・東京司法書士会理事・公嘱協会理事長という肩書きを持ち、幅広い活躍をされている山田猛司氏に、そのお立場から、司法書士の実務や司法書士の育成など、司法書士業界をより活性化するためのご意見をうかがった。
■ オンライン申請に馴染む嘱託登記
山田先生は、社団法人東京公共嘱託登記司法書士協会理事長を務められていますが、どのような活動をされているのか、お聞かせください。
協会に関しては、権利に関する「社団法人東京公共嘱託登記司法書士協会」と、表示に関する「社団法人東京公共嘱託登記土地家屋調査士協会」と2種類あります。私が理事を務めます社団法人東京公共嘱託登記司法書士協会(以下、東京公嘱協会)は、官公署等が行う、いわゆる公共嘱託登記を受託し、司法書士が永年にわたって培ってきた専門能力を最大限に駆使し、登記を処理することによって公益に寄与することを目的としています。そこで公嘱協会は、受託体制を整え、日々の研鑽を通じて登記の正確かつ迅速な処理を旨として業務にあたっています。 具体的な業務内容としては、国や地方公共団体等からの各種登記の嘱託または申請ならびに権利調査や、土地改良法、国土調査法、土地区画整理法、都市再開発法等多数の法令に基づく各種登記の申請が挙げられます。
司法書士の公共嘱託登記と土地家屋調査士の公共嘱託登記とどのような違いがあるのでしょうか。
分かりやすく申し上げますと、建物を建てて一番最初にする表題登記や土地の分合筆などの登記は土地家屋調査士協会の方で、土地や建物の表示登記がされている場合のその後の所有権保存等、権利に関する登記は司法書士協会の方が担当する事になります。
近年、登記のオンライン申請が定着してきていますね。どのような状況でしょうか。
オンライン申請は、法務省が普及に力を入れていますから、だいぶ定着してきているかと思います。ただし、最近、登記識別情報というものが問題になっていますね。登記権利者が官公署である登記を「嘱託登記」というのですが、この嘱託登記においては、登記権利者に登記識別情報も通知しないというのが原則で、また、官公署が登記義務者の場合には登記識別情報を提供しなくても登記ができるのでオンライン申請にも馴染む特殊性があります。しかし、その嘱託登記において、たまに登記識別情報を後から欲しいと言われることがあり、困ることがあるのです。
登記は重要なものですし、間違いがあれば大変ですから、そのようなこともあるのでしょうね。
官公署の登記は公共性も高く、信頼を重んじる公務員からの依頼に基づくものですから、余計に間違ってはいけないので気を遣います。
■ 実務の講義は少人数がベスト
山田先生は、東京経済大学、成蹊大学、駒澤大学と3つの大学で教鞭をとられていらっしゃいますが、やはりご専門の嘱託登記に関係することをお話されているのでしょうか。
不動産登記が多いのですが、商業登記の話をしたり、債権譲渡の登記の話も少ししたりしています。成蹊大学と駒澤大学は不動産登記法という講義科目なので不動産登記がメインですが、東京経済大学は登記手続法研究という講座なので、不動産登記に限らず、受講生の希望によって商業登記や債権譲渡の登記など登記に関連することはいろいろとお話しすることになっています。
それは大変幅広いですね。なかなか学生は聞けないことですから、大変人気があるのでは。
100名超えるくらいいますね。多くの学生が関心を持ってくれて、うれしい限りですが、対話形式の授業が好きな私としては多すぎるのも難点です。大学院は少なくて、数人程度のことが多いので良いですね。
実務を身に付けようとしたら、少人数の方がよいでしょうね。
大学院の授業には、高齢者の財産管理の勉強をしているって学生がいるのですが、住宅ローンの一種で、自宅を担保に老後資金を調達する「リバース・モゲージ(※)」という手法について質問を受けたりします。この少人数の授業では、対話があるからこその、活発な質疑応答、意見交換がありますね。
■ 試験の勉強でもゼミは有効
山田先生は、元司法書士試験の試験委員を務められていたので、試験、試験対策についてもお詳しいですね。
そうですね、司法書士試験に関する著書も出しておりますので。そのような経験をして思うのは、司法書士試験の対策として、ゼミのようなものがあるとよいということです。
弊社では以前より、弁理士講座に関してはゼミを設けています。約15人のゼミで、講師が答案の指導などしています。最近は、司法書士など他の資格試験の講座にも設けるようにしました。
勉強している方の中には、知りすぎていて受からないということがあります。そのような方は、突破口を開いてあげるとすぐ受かるものです。ロースクールの設置で今後ますます弁護士が増えてきますので、司法書士業界もそれを踏まえて発展させていかなければなりません。若手を増やして活性化したいですね。
そうですね。平成15年より司法書士に簡裁裁判所の訴訟代理権が付与されていますが、身近な困りごとに対し気軽に相談できる法律家として今後その活躍が期待されています。山田先生には今後ますます司法書士の発展のためにも、後進の育成などご活躍いただきたいと思っております。本日はありがとうございました。
(※)リバース・モゲージ:[reverse mortgage]所有する不動産を担保とした年金制度。
≪ご経歴≫
社団法人東京公共嘱託登記司法書士協会理事長/東京経済大学現代法学部大学院非常勤講師/成蹊大学法学部不動産登記法非常勤講師/駒澤大学法学部法学研究所指導員
山田 猛司(やまだ たけじ)
1959年栃木県生まれ。1985年司法書士試験合格。1986〜1988年東京ビジネススクール講師。1991年〜東京公共嘱託登記司法書士協会理事、現在理事長。1997年〜1999年東京司法書士会理事。東京司法書士会新人研修室講師、東京司法書士会世田谷支部長、司法書士試験委員、東京司法書士会登記実務相談室員、東京司法書士会ホームページ運営委員などを歴任。現在東京公共嘱託登記司法書士協会理事長を始め、全国公共嘱託登記司法書士会協議会副会長、東京経済大学大学院および成蹊大学非常勤講師、駒澤大学法学部法学研究所上級講座指導員、電子政府推進員。著書に『会社分割と根抵当権』、『新不動産登記の改正実務Q&A』(セルバ出版・2006)、『新不動産登記関係法令とその読み解き方』(セルバ出版・2006)、『図解いちばんやさしい会社の作り方』(新星出版社・2006)、『司法書士をめざす人の本〈’09年版〉(最新合格への近道)』(成美堂出版・2008)、『司法書士過去3年問題集』(成美堂出版・2008)、『司法書士完全予想模試』(成美堂出版・2007)、『ケース別不動産取引登記の実務』(新日本法規・2009)など。