活躍のフィールドを広げる弁護士の今とこれから
梅田 康宏氏 日本組織内弁護士協会理事長/弁護士
聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役
司法制度改革を経て、弁護士大増員時代に入り、企業に勤務する「企業内弁護士」や中央官庁に勤務する「行政庁内弁護士」が年々増加している。今後の経済社会においてますますその役割が期待される企業内弁護士の展望について、自らもNHKで企業内弁護士としてご活躍され、企業内弁護士の分野を切り開いてこられた日本組織内弁護士協会理事長・梅田康宏氏にうかがった。
■ 企業や官公庁で働く弁護士を増やすことで社会基盤を整備する
梅田先生が理事長を務められている日本組織内弁護士協会を拝見しますと、組織内弁護士がだいぶ増えているようです。
2008年上半期が267名、下半期が346名と着実に増えています。最近は、企業だけではなく、官公庁、自治体で働く弁護士も増えてきており、活躍の場が広がっていることもあって、増加しているのだと思われます。現在、金融庁、法務省、外務省、経済産業省、公正取引委員会、証券取引監視委員会、財務省財務局、特許庁、内閣府、国土交通省、中小企業庁などにおいて、制度上5年を超えない範囲で、弁護士が任期付公務員として活躍しています。
昨年、弁護士の就職難が取り沙汰されましたが、昔のように弁護士になったら、まずはどこかの法律事務所に入っていつか独立といったことを希望している人が多いのだと思います。司法制度改革では、企業や官公庁に弁護士を増やそうとして弁護士の増員を決めたわけで、実際は、本当に弁護士が必要なところに弁護士がいっておらず、まだまだ弁護士が足りない状態のはずです。
おっしゃる通りです。確かに、弁護士の就職難も聞かれ、「いずれ余るのではないか」という見方もあります。弁護士が企業や官公庁に進出するのは、働き口がないからだと受け取る向きもあるようです。しかしそれは、司法制度改革の原因と結果を取り違えています。弁護士過疎の問題を解決するとともに、企業や官公庁で働く弁護士を増やすことで社会基盤を整備することを目指したのが、弁護士数の大幅増員を含む司法制度改革のねらいそのものなのです。
外資系企業の企業内弁護士を見てみると、実際に重要な意思決定に参画している弁護士が多いようです。そのような方をもっと紹介していけば、組織内弁護士になることを敬遠する傾向を払拭できるのではないでしょうか。また、企業・組織というのは本当に幅広い分野や最先端の案件を扱い、応用能力やバランス感覚を一番試される場です。企業内弁護士として活躍すれば、本当の仕事のおもしろみを知ることが出来ると思います。しかし、それが理解されていないのが現状です。企業の中に埋没してしまい、本来の法の正義や支配を歪められてしまうという先入観があるのではないでしょうか。そうではなく、企業は率先して法の正義を図ることができる最先端の場ですから、それが理解されていかないと、なかなか壁が破れられないと思います。
従来は、権力からの独立という観点から、公務員への就任は原則として禁止され、営利法人の従業員や役員になるときも許可が必要とされてきました。いずれも「弁護士としての独立性」を確保するためと説明されてきました。しかし、企業や官公庁は、弁護士の専門性に期待して雇うわけで、専門的判断を述べることの独立性、英米法でいうところの「プロフェッションとしての独立性」については常に保証されているといって差し支えないと考えます。もしそうでなければ、一般の職員よりも高い給料を払って雇う意味がありません。プロフェッションとしての独立性を保ち、組織内の特定の部署や個人、特定のステイクホルダーなどに惑わされることなく、常に組織の利益を第一に考えて行動することは、組織内弁護士として当然のことです。
■ 弁護士の差別化が進み組織内弁護士が増えれば業界が活性化する
組織内弁護士の中には、弁護士事務所に籍を置きながら企業と雇用契約をしている方もいらっしゃるようでですが、梅田先生の場合は、NHKの職員としてお勤めされているのでしょうか。
私は完全にNHKの職員です。
弁護士の登録もされているので、さまざまな弁護士会の活動もあることと思いますが、その調整や、会社の業務上の規則はどのようになっているのでしょうか。
そのような点は、会社によって違うとと思いますが、私の場合は、会社の理解もあり、弁護士会にもよく参加しています。フレックス制度が適用されている方の場合は、弁護士会に参加してもその分を働けばよいといったかたちがあるようです。また、弁護士会に参加する場合は、必ず全休もしくは半休を取らなければならないとされている方もいらっしゃるようです。
今の時代、普通の社員でも時間給、年俸制と同じ会社の中でさまざまな雇用形態になっていますし、それと変わらないですね。雇用保険には入られているのでしょうか。
入っています。年金も、NHKの厚生年金に入っています。
その点も、普通の社員とほとんど変わらないですね。ただし、雇用保険はもらえないのでは。
確かに解雇されてももらえませんので、払い損になってしまいます。
それは、弁護士に限ったことではなく、法律専門職であればそうなりますが。
そうですね。
企業や官公庁などに法律専門職が増えていけば、年金や雇用保険が問題になってくるでしょう。今後、法律専門職の社会保障の面について問題提起し、見直していかなくてはならないと思います。そういった問題を解決していくことによって、もっと企業や官公庁など組織の中で働く弁護士も増えると思います。ぜひ、日本組織内弁護士協会で取り上げていただきたいと思います。
組織内弁護士ということに限らず、これから弁護士の人数は増えていくと思いますので、企業も事務所も同じ次元だと思います。法律事務所の中には、司法書士や行政書士が実情なし崩し的に入ってきているところもあり、もっと弁護士自身がやるべき仕事があると思います。
今まで少なかったばかりに出来なかったことはたくさんあるはずです。
税理士などと比べてみると、弁護士は企業内外にかかわらずもう少し存在感を示してもいいのではないかと感じます。今後、どんどん人数を増やして拡大を図っていくのが王道だと思います。その中で、他の弁護士との差別化が図られ、多くの企業や組織が弁護士を置くようになれば、弁護士全体の仕事が増え、業界全体が活性化すると思います。
その通りだと思います。梅田先生には、今後も業界を活性化すべく、ご活躍いただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
≪ご経歴≫
弁護士/日本組織内弁護士協会理事長
梅田 康宏 (うめだ やすひろ)
1996年3月慶應義塾大学法学部法律学科卒業、1997年10月司法試験合格、1999年4月最高裁判所司法研修所入所(53期)、2000年10月弁護士登録(東京弁護士会)。2000年12月NHK(日本放送協会)に入社し、企業内弁護士として勤務する。現在日本放送協会コンプライアンス室法務部・法務主査、日本組織内弁護士協会(JILA)理事長、日本弁護士連合会弁護士業務総合推進センター任期付公務員、企業内弁護士PT 副座長。著書に『インハウスローヤーの時代』(共著/日本評論社・2004)、『よくわかるテレビ番組制作の法律相談』 (KGビジネスブックス・2008)など。