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激動の時代における弁理士像

森哲也氏 元日本弁理士政治連盟会長

聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役


2002年に、政府が知的財産を重視する国家戦略「知的財産立国」を打ち出し、その実現を果たすべく、現在にいたるまで各種政策が進められている。そのような流れに加え、司法制度改革により、 従来は特許出願、意匠出願、商標出願などの出願業務を中心としていた弁理士の業務が、特定侵害訴訟、著作権、輸出入差止などの周辺業務にまで拡大されている。 そんな弁理士の発展を牽引されてきた元日本弁理士政治連盟会長・森哲也氏に、激動の時代における弁理士のあり方についてうかがった。


■ 時代の変化を踏まえながらもブレない理念をもった取り組みの必要性

反町

森先生は、司法制度改革において、弁理士の知的財産権に関する 完全なる訴訟代理権獲得を目指していろいろとご活動されてきたほか、早くから国家戦略として、知的財産権の政策に重要なポジションを与えるべきであると主張され、弊社広報誌「法律文化」でもいろいろとお話いただきました。 現在の弁理士業務を見てみますと、特定侵害訴訟代理、著作権、輸出入差止など周辺業務にまで拡大され、さらには国家戦略のひとつに知的財産立国が掲げられて、弁理士への期待はよりいっそう高まっており、先生の取り組みが実を結んでいます。

森哲也 氏 (元日本弁理士政治連盟会長)

佐々木

私は、いつも国家というものを考え、弁理士の立場からいろいろと提言をしてきました。弁理士に限ったことではないですが、司法制度改革を経て、各種法律・会計専門職の改革はだいぶ進んできていると思います。しかし、その中で、法律サービスの拡充という点において、弁理士にできることは、今後まだあるのではないかと思っています。 反町さんも、長い間、各種法律・会計専門職資格の受験生を支援するお立場からいろいろと取り組まれ、現在は人材派遣、保育、大学事業と展開されてきています。これは大きな功績だと思います。

反町

私は、これからの日本国家の方向性を踏まえた理念に基づく企業経営を基本指針として会社を経営しております。近年は、IT化、グローバル化により、世の中の動きもより急速になり、各企業とも、その速さについていくことが厳しい時代になっています。さらに100年に1度の大恐慌に突入し、日本は時間のかかる基礎研究を土台としたものづくりや開発については、短期利益を得ることは難しいこともあって、近年、特に上場している企業では、基礎研究よりも配当といった風潮があります。

佐々木

同感です。今は世界的に大競争の時代になっていますから、どうしても企業は短期利益を追うようになってしまっています。しかし、それでは腰を据えた基礎研究が本当に出来なくなってしまいます。

反町

私どもの事業の基軸である教育は、弊社のWeb講座やUSB講座をご覧いただいても分かりますように、新しい時代のイノベーションを開発しやすい産業です。新しい産業は、デジタルと関連したものが多いようです。しかし、デジタルと言っても、コンテンツは知財の固まりですから、時間が掛かる基礎研究、基礎・土台づくりがなければ、新しいことをやっても利益はあがらないというように、二律背反性が強いところがあります。

佐々木

確かな利益は、簡単には生まれないということの証左でしょう。現在、わが国では誰もが「いかに早く、うまく儲けるか、稼げるか」といったことにばかりに関心を持ち、確かな利益を生む基礎、技術なり知識なりを身に付けようという気概がないように思います。目まぐるしく変わる世の中になって、そのような余裕もなくなっているのかもしれませんが。

反町

連日マスコミでも問題に取り上げられていますが、現在は、アメリカのサブプライムローンに端を発するこの金融恐慌もあって、ますます混迷の様相を呈しており、ますます余裕がない状況に陥っています。

佐々木

今回の金融大恐慌は、1929年のアメリカ大恐慌に極めて似た現象ですよね。あのころと違うのは、情報が高速化しているという点です。したがって、今回は、全世界が一丸となって対策を展開すれば比較的早くおさまると思われます。

反町

金融は持ち直すかもしれませんが、メーカーは、新たな対応が必要でしょう。

佐々木

実体経済にあまり影響がない間に、金融の改革をしなくてはならないと思います。

反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役

反町

金融については、先進国ばかりではなく、BRICSその他の国をいれた世界的な対応策を詰めています。それが当面効果をもたらすでしょう。

佐々木

私は、金融の専門家ではありませんが、まず、金融改革をやるべきだと思います。付け焼刃的なことをやっても一時的なものに終わり効果はあまりないでしょう。インフレ政策と金融改革というのは、いつも二律背反的に出てきますが、その辺は日銀の専門家の腕の見せどころだと思います。

反町

100年に1度の大恐慌と言われているのですから、これまでの理論通りでは通用しないのでしょう。

■ 様々な人との出会いが視野を広げる

佐々木

最近、私は、特定侵害訴訟代理をするあたり、民法の抜粋を持ち歩いています。特定侵害訴訟代理は、民法の条文を根拠にして対応しなくてはなりませんから。

反町

弁理士は業務が拡大して期待されていますから、今後ますます取り扱う法律が増えそうですね。 私は「知る」ということが趣味なので、日々さまざまな書物を読んで勉強しています。森先生は、弁理士というお立場を基軸にしながらもあらゆる分野にご関心をお持ちですが、弁理士の方や弁理士を目指されている方にお勧めの一冊はございますか。

森哲也 氏 (元日本弁理士政治連盟会長)

佐々木

これまでいろいろと勉強をしてきた中で大変参考なっているのが、元日本大学法学部教授で弁護士でもあり弁理士でもある後藤晴男氏の『パリ条約講和』(発明協会・1981)という書籍です。われわれの仕事はパリ条約が中心ですから。

反町

それはぜひ、私も読んでみたいですね。知的財産立国が国家戦略になっていることを見ても分かりますが、弁理士の方は、ほかの法律専門職と比べても、よりグローバルなフィールドにいらっしゃいますから、視野が広がりますね。森先生ご自身は、それ以上に、弁理士という枠にとらわれることなく、あらゆる方面にご関心をお持ちで、ご活躍されていますが、その秘訣のようなものはあるのでしょうか。

佐々木

現在、私は経済同友会幹事を務めています。この同友会では、さまざまな人と出会うことができるのが大きな魅力であると思っています。そう思ったのも、この同友会で反町さんに出会ったことが何よりも大きかったからなのですが、実業界でトップを極めた方々と交流することよって開かれるものが大変多くありました。

反町

ありがとうございます。私も、このように森先生と意見を交わすことが大きな刺激になっております。森先生が弁理士の発展のために、これからさらにご活躍されることを祈念いたしております。


≪ご経歴≫

元日本弁理士政治連盟会長
森哲也(もり てつや)
1940 年生まれ。日本大学法学部・工学院大学専修学校応用科学科卒業。 特許業務法人日栄国際特許事務所代表社員・所長弁理士。特定侵害訴訟代理資格者。前日本弁理士政治連盟最高顧問。現在、経済同友会幹事を務める。

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