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激動の時代における法科大学院、司法試験のあり方を考える

小林 元治氏(弁護士/日本弁護士連合会日本司法支援センター推進本部副本部長)

聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役

司法制度改革によって法科大学院、新司法試験がスタートして、合格者3,000人時代が到来した。新司法試験の合格者の質が低下している、法曹資格者の就職が困難になっている、といったことに加え、新司法試験の結果等において学校間格差も表れ、法科大学院の規模縮小についても議論が出ている。それらの現状を踏まえ、今後、法科大学院、新司法試験はいかにあるべきなのか、司法制度改革において日弁連司法改革実現本部事務局次長という要職をお務めになられた小林元治氏にお話をうかがった。


■ 法科大学院のこれから

反町

小林先生と私は、司法修習の同期で、東京弁護士会に入って間もない頃から現在に至るまで、さまざまな意見を交わすなど、長い間お付き合いをさせていただいております。小林先生は、司法制度改革の先頭に立っていろいろとご苦労もおありでしたね。

小林

反町さんは、ご一緒させていただいた東京弁護士会等でのご発言が際立っていました。出会った当初から「只者ではない」と思っておりましたが、LECがここまで大きくなったのも、反町先生のバイタリティがあればこそだと思います。 私は、司法制度改革において日弁連司法改革実現本部事務局次長として取り組んできました。また、東京青年会議所に入って理事長なども務めましたが、弁護士会の外からも将来を見据え、国民・市民(ユーザー)、グローバル化の視点を持った改革となるように腐心してまいりました。

反町

グローバル化、IT化が進み、世の中の動きは日々早くなっています。このような激動の時代において、司法がいかにあるべきかを考え、変革していく機会が設けられたことは大変意義がありましたね。

小林 元治氏(弁護士/日本弁護士連合会日本司法支援センター推進本部副本部長)

小林

そうですね。司法過疎の問題に目を向け、その解消に向けて法科大学院についても、東京や大阪に集中させることなく全国に適正に配置されるようにされ、現在、法科大学院は74校、約5,800人の卒業生がいます。とはいえ、修了者の7〜8割を合格を目指していたにも拘わらず、今年の合格者は30%余りであり、これは適正な数なのか否かという話が出ています。

反町

世の中の法律サービスのニーズを見ると、社会・経済の複雑化、コンプライアンスの徹底に伴い、個人、企業・団体とも、より専門的かつきめ細かいアドバイス、フォローを求めるなど潜在的なものも含めてニーズが高まっています。しかし、「相談料が高い弁護士に頼むほどではない」という現実的なことと照らし合わせて、法律サービスの利用を踏みとどまっているところがあると思います。このような実情を考えたとき、法科大学院は、法曹養成機関であるべきであるというあり方を見直し、専門性に目を向けるべきかと。わが国には、司法書士、弁理士、社会保険労務士、不動産鑑定士など多数の法律専門職があります。また、法律に則って会計を処理する公認会計士、税理士といった会計専門職もあります。このような実情を踏まえ、法科大学院は、出口を法曹に限定するのではなく、法律・会計専門職にも目を向けさせ、選択肢を増やすようにするのが良いと思います。つまり、法科大学院を単に減らすのではなく、法曹養成を軸としながらも、隣接専門職養成にもつながるかたちをつくるのがよいのではないかと。企業でいえば多角化となるのでしょうか。

小林

現在、法科大学院をやめた大学はありませんが、今後も法科大学院を残していきたいと思うところは、そのようなことを考えるのも一案ではないかということですね。多角化を目指していくのがよいのでしょうか。

反町

もし法科大学院をやめるとなれば、法学部をやめるということにつながりかねません。つまり、現状として、法学部出身以外の人よりも法学部出身の方、社会人よりも法学部の学生を抱え込んでいる傾向にあり、法学部出身以外の方や社会人が入りにくいところ、入れないところについては、4年プラス3年の7年の法学部をつくったということなので、法科大学院をやめるといった瞬間に法学部にくる人がいなくなります。法科大学院をやめるというのは法学部の存続の問題にもなりますよね。

小林

なるほど。法学部のことを考えたら、法科大学院を廃止するわけにはいなかいということですね。法科大学院協会では、入学者数を絞ったらどうかという意見も出ているようですが。

羽鳥 亘氏、反町勝夫対談

反町

なかなか絞れないんじゃないですかね。

小林

法学部、ひいては大学そのものにもかかわってくるとなれば、なかなか絞れないかもしれませんね。ただ、合格率が低くなって社会の有為な人材が集まらなくなると、法科大学院そのものの地盤沈下になることもありうるので、法科大学院を経営する全大学が智恵を出す工夫が必要かも知れません。

反町

大学院を増やす方向に来ているわけですので、大学そのものをなくしてしまうことは、大学教育の基本的なモデルの崩壊になりますね。

小林

法科大学院数を調整せず、司法試験の合格率を7〜8割とするのであれば、やはり法科大学院の入学者数を絞ることは検討しなくてはならないように思います。今、予備試験と新司法試験の合格率の均衡のバランスを取るというのが閣議決定であり、規制改革会議が意見を述べていますが、予備試験の枠をどんどん広げていけば、法科大学院の存続が厳しくなります。

■ 司法試験のこれから

反町

新司法試験が始まってから、法曹の質というのがクロースアップされています。長年司法試験の受験指導をしてきました立場から、その問題について申し上げますと、これは司法制度改革の弊害といったものではなく、教える側、教えてもらう側とがマッチしていないという点が挙げられると思います。

小林

具体的には?

反町

まず、教える側ですが、弁護士などは、かつて受験勉強したから、多少なりとも教えるということを知っていますが、現在法科大学院で教鞭をとっている教授が、旧司法試験の受験勉強をしたことがない、あるいは合格していないことが多いということ。昭和35〜36年から司法試験が難しくなったのですが、そのときから教えたことのある方はなかなかいません。一方、教えられる側ですが、昔と変わっています。昭和の頃は、先生がヒントを与えられれば自分の弱点などを察して自発的に勉強していました。しかし、今は違います。具体的に何を勉強しなくてはならないか一人ひとり分かるようするなど100%教えることをしないと勉強しないところがあります。教える側に十分なノウハウがないのに、教えてもらう側は、まるっきりの受身になってしまっており、ギャップが開いてしまったのです。しかも、試験科目が広く、昔と違って判例も膨大で2〜3年間では学び切れない状況もあります。

小林 元治氏(弁護士/日本弁護士連合会日本司法支援センター推進本部副本部長)

小林

確かに、法科大学院の2〜3年は短かすぎですね。特に未修の方は既修の方の学部4年分を1年に多いだけなので、それで本当に埋められるのかというところがあります。弁護士の質を問題にし、徹底して従来の司法試験の質を前提にするのであれば、その修学期間を調整するか、合格基準をもっと上げる等しないとなりませんね。

反町

私も全く同じ意見です。近年、法曹以外の各法律専門職も活躍の場を広げており、レベルも上がっています。そのあたりも踏まえた議論をすべきでしょう。

小林

反町さんは、長年、LECで日本の法曹養成に当たってこられ、司法という厚みを作るところで、最前線でがんばってこられましたよね。人の育成という基盤を支えてきて、もう30年。これはもう大変なノウハウと実績があるわけです。そのお立場から、今後さらに法曹養成の発展に貢献されていくことを期待しております。

反町

ありがとうございます。教育は国家100年の大計と言います。法科大学院、新司法試験とも、まだ端緒に付いたばかりであることに加え、激動の時代ですので、よりよいものとすべく、今後も議論を重ねてしかるべきでしょう。私どもも30周年を迎えますが、まだまだこれからだと思っています。小林先生には、今後も議論の先頭に立って、ご活躍いただき、世界に誇れる法曹養成制度を確立していただきたいと思っております。本日はありがとうございました。

≪ご経歴≫

弁護士/日本弁護士連合会日本司法支援センター推進本部副本部長
小林 元治(こばやし もとじ)
1982年東京弁護士会常議員。1987年東京都公害監視委員会委員。1991年社団法人東京青年会議所理事長、財団法人東京フロンティア協会理事、東京都青少年協会理事。1997年法務省法律扶助制度研究会幹事。1999年日本弁護士連合会司法改革実現本部事務局次長、東京弁護士会春秋会幹事長。2003年東京弁護士会副会長、日本弁護士連合会常務理事、同リーガルサービスセンター問題対策本部事務局長。2004年日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員、日本弁護士連合会日本司法支援センター推進本部事務局長、現在同推進本部副本部長、同立法対策センター事務局長。主な著書に『貸金業規制法』(一粒社・1985)、『宅地建物取引業の実務』(新日本法規・1988)、『権利能力なき社団の登記能力「現代判例民法学の課題」(森泉章教授還暦記念論集)』(法学書院・1988)所収など。

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