市民にとってより身近な法的支援機関を目指して
岩井 重一氏 日本司法支援センター常勤弁護士推進本部長/弁護士
聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役
2006年、司法制度改革の一環で、総合法律支援法(※1)に基づいて市民に法律サービスを広く提供すべく設立された日本司法支援センター(愛称:法テラス)の現状と展望のほか、法テラスを通じて活躍中のスタッフ弁護士について、日本司法支援センター常勤弁護士推進本部長・岩井重一氏にうかがった。
■ 将来的に法テラスの人材は自前で育てていく
現在、日本各地で見られる日本司法支援センター(以下、法テラス)は、2006年4月に設立され、3年ほど経ちました。だいぶ認知度が高まったのではないでしょうか。
それなりの広報予算は取っていますが、国の財政で賄われていることから限度があり、広報活動には苦労してきています。「法テラス」は、国民の法的な悩みに応えるサービスのようなものであることから、国の予算のかけ方を見ても、必要最低限というような状況です。しかしながら、新聞やテレビ、雑誌などで積極的に取り上げてくださったこともあって、少しずつですが、広まってきていると実感しています。司法を市民にとって身近なものにするという観点から、法テラスは成功していると思います。
法テラスの常勤弁護士である「スタッフ弁護士」も定着してきているようですが、スタッフ弁護士はどのように採用されているのでしょうか。
スタッフ弁護士は、司法修習生もしくは法曹経験者から募集して採用しています。法テラスは国の財政で賄われていますので、同期の裁判官・検察官と同等の給与が支給されます。司法修習生は、1年間の養成期間を経て、3年任期、2回更新可能ですので、約10年勤務することができます。後輩の指導が出来る人であれば、その後さらにシニアスタッフ弁護士として活躍してもらうこともあります。法曹経験10年を超える方で、スタッフ弁護士のシニア格としてふさわしい方については、2年契約で2回更新可能です。
非常勤弁護士の方もいらっしゃるのでしょうか。
おります。私も法テラスの非常勤弁護士です。現在、法テラスには、私のような非常勤弁護士のほか、法務省や裁判所から来ている方もいますが、将来的には自前で人材を育てていかなければなりません。そのためにも、全国の地方事務所50カ所、支部11カ所、出張所6カ所、地域事務所26カ所と多くの拠点で活躍しているのですが、その地域の中でスタッフ弁護士は、市民のために一生懸命やっております。将来、法テラス本部に入り、課長あるいは次長、そして将来は理事長を担っていただきたいと思っています。
現在、このように多くの地域で活躍している弁護士先生が、着々とその役割を果たしておりますので、近い将来定着して岩井先生がおっしゃるかたちに成長していくことと思います。地方で活躍している弁護士は、みんなその土地の名士です。地方の法テラスに研修で入るのは大変よいことだと思います。
弁護士登録2年目でも、新聞に大きく取り上げられたりしますし、地元に根を下ろすのによいかもしれません。
スタッフ弁護士の仕事内容についてお聞かせください。
法テラスが行う主な業務は、情報提供業務(※2)、民事法律扶助業務(※3)、国選弁護等関連業務(※4)、司法過疎対策業務(※5)、犯罪被害者支援業務(※6)の5つあります。そのうち、スタッフ弁護士の主な業務は、4類型の法律事務の取扱いです。一つ目が、民事法律扶助事件で、資力の乏しい方が法的なトラブルに遭ったときに無料の法律相談を行い、相談者が希望する場合、一定の要件の審査を経た後、裁判の代理援助や書類作成援助を行います。これは従来、法律扶助協会が行ってきた事業で、そっくり国が引き継いで法テラスが行うかたちになりました。二つ目が、国選弁護事件で、貧困等の理由で私選弁護人を選任できない被告人や、勾留段階の被疑者の国選弁護人として弁護活動を行います。三つ目が、司法過疎地域における有償受任です。弁護士がいないか極めて少ない、いわゆる司法過疎地域において、有償による法律サービスの提供を行います。 四つ目が、被害者国選参加弁護士として犯罪被害者の支援業務を行います。このほかにも、受託業務や情報提供業務のバックアップ、関係機関等との連携の確保及び強化(※7)、法テラスの業務に関する講習・研修の実施(※8)など法第30条に規定する法テラスの業務に従事することが含まれます。
認定司法書士が、法テラスの職員として採用されることは出来るのでしょうか。
認定司法書士の場合は、職員ではなく契約です。認定司法書士は、紛争の目的の額が140万円までの民事紛争や書類作成援助を専門に扱っていますが、情報提供もやっています。
■ 司法試験受験生が読むと役立つFAQ
訴訟関係だけでなく、ワンストップサービスで、税務、相続、離婚と何でも幅広く出来ると良いと思います。
今までさまざまな相談機関があったと思うのですが、統一的に紹介する機関はありませんでした。今回、法テラスは、法的トラブルの総合案内所として、問い合わせすれば案内できるようにしました。
ネットワークが出来ていますから。失業関係の相談なんかも入ってくるのでしょうか。
こういう時代だからあります。法テラスでは、2年前の2007年から、一般的な疑問に答えるFAQ、 (よくある質問と答え)をホームページ上で公開しており、現在、3000問くらいあります。これは、司法試験受験生が読むと、非常に役立つと思います。
それはいいですね。司法試験受験生が、法テラスでアルバイトできると良いと思うのですが。
コールセンターでは、法科大学院生がアルバイトをしています。
地元で法科大学院に行けない人や浪人している人、司法書士の受験生がやるのもよいのではないでしょうか。
そうですね。
法テラスは、着実に、市民にとって使い勝手がよい司法制度となっており、司法制度改革で大きな成果を上げているものになっているのですね。岩井先生には、今後法テラスが、ますます発展するようにご尽力されることをお願いし致します。
本日はありがとうございました。
※1 総合法律支援法
平成16年6月2日公布、施行。法的な紛争解決のための情報やサービスが全国どこでも広く利用できるよう、総合的な支援の実施および体制の整備についての基本事項と、その中核となる日本司法支援センターの組織および運営について定めた法律。
※2 総合法律支援法第30条第1項第1号
支援センターは、第十四条の目的を達成するため、総合法律支援に関する次に掲げる業務を行う。
一 次に掲げる情報及び資料を収集して整理し、情報通信の技術を利用する方法その他の方法により、一般の利用に供し、又は個別の依頼に応じて提供すること。
イ 裁判その他の法による紛争の解決のための制度の有効な利用に資するもの
ロ 弁護士、弁護士法人及び隣接法律専門職者の業務並びに弁護士会、日本弁護士連合会及び隣接法律専門職者団体の活動に関するもの
※3 総合法律支援法第30条第1項第2号
民事裁判等手続において自己の権利を実現するための準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない国民若しくは我が国に住所を有し適法に在留する者(以下「国民等」という。)又はその支払により生活に著しい支障を生ずる国民等を援助する次に掲げる業務
イ 民事裁判等手続の準備及び追行(民事裁判等手続に先立つ和解の交渉で特に必要と認められるものを含む。)のため代理人に支払うべき報酬及びその代理人が行う事務の処理に必要な実費の立替えをすること。
ロ イに規定する立替えに代え、イに規定する報酬及び実費に相当する額を支援センターに支払うことを約した者のため、適当な契約弁護士等にイの代理人が行う事務を取り扱わせること。
ハ 弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)その他の法律により依頼を受けて裁判所に提出する書類を作成することを業とすることができる者に対し民事裁判等手続に必要な書類の作成を依頼して支払うべき報酬及びその作成に必要な実費の立替えをすること。
ニ ハに規定する立替えに代え、ハに規定する報酬及び実費に相当する額を支援センターに支払うことを約した者のため、適当な契約弁護士等にハに規定する書類を作成する事務を取り扱わせること。
ホ 弁護士法その他の法律により法律相談を取り扱うことを業とすることができる者による法律相談(刑事に関するものを除く。)を実施すること。
※4 総合法律支援法第30条第1項第3号
国の委託に基づく国選弁護人及び国選付添人(以下「国選弁護人等」という。)の選任並びに国選被害者参加弁護士の選定に関する次に掲げる業務
イ 裁判所若しくは裁判長又は裁判官の求めに応じ、支援センターとの間で国選弁護人等の事務を取り扱うことについて契約をしている弁護士(以下「国選弁護人等契約弁護士」という。)の中から、国選弁護人等の候補を指名し、裁判所若しくは裁判長又は裁判官に通知すること。
ロ 犯罪被害者等保護法第五条第一項の規定による請求があった場合において、裁判所に対し、これを通知するとともに、同条第二項の規定により提出を受けた書面を送付すること。
ハ 支援センターとの間で国選被害者参加弁護士の事務を取り扱うことについて契約をしている弁護士(以下「被害者参加弁護士契約弁護士」という。)の中から、国選被害者参加弁護士の候補を指名し、裁判所に通知すること。
ニ イの通知に基づき国選弁護人等に選任された国選弁護人等契約弁護士及びハの通知に基づき国選被害者参加弁護士に選定された被害者参加弁護士契約弁護士にその事務を取り扱わせること。
※5 総合法律支援法第30条第1項第4号
弁護士、弁護士法人又は隣接法律専門職者がその地域にいないことその他の事情によりこれらの者に対して法律事務の取扱いを依頼することに困難がある地域において、その依頼に応じ、相当の対価を得て、適当な契約弁護士等に法律事務を取り扱わせること。
※6 総合法律支援法第30条第1項第5号
被害者等の援助に関する次に掲げる情報及び資料を収集して整理し、情報通信の技術を利用する方法その他の方法により、一般の利用に供し、又は個別の依頼に応じて提供すること。この場合においては、被害者等の援助に精通している弁護士を紹介する等被害者等の援助が実効的に行われることを確保するために必要な措置を講ずるよう配慮すること。
イ 刑事手続への適切な関与及び被害者等が受けた損害又は苦痛の回復又は軽減を図るための制度その他の被害者等の援助に関する制度の利用に資するもの
ロ 被害者等の援助を行う団体その他の者の活動に関するもの
※7 総合法律支援法第30条第1項第6号
国、地方公共団体、弁護士会、日本弁護士連合会及び隣接法律専門職者団体、弁護士、弁護士法人及び隣接法律専門職者、裁判外紛争解決手続を行う者、被害者等の援助を行う団体その他の者並びに高齢者又は障害者の援助を行う団体その他の関係する者の間における連携の確保及び強化を図ること。
※8 総合法律支援法第30条第1項第7号
支援センターの業務に関し、講習又は研修を実施すること。
≪ご経歴≫
日本司法支援センター常勤弁護士推進本部長/弁護士
岩井 重一(いわい しげかず)
1945年長野県生まれ。1968年中央大学法学部卒業。1969年司法試験合格後、司法修習生を経て、1972年弁護士となり東京弁護士会に所属。1991年東京弁護士会副会長。2004年東京弁護士会会長、日本弁護士連合会副会長兼務。現在、日本司法支援センター(愛称法テラス)の常勤弁護士推進本部長。主な著書に『詳解道路交通法』(共著/有斐閣・1980)『日本人の心得―裁判員になったら読む本』(CKパブリッシング・2009)など