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トラブルを未然に防ぐ行政書士のペット法務伊藤 浩氏(行政書士ADRセンター東京センター長) 聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役 近年のペットブームもあって、ペットは家族の一員としての存在をしつつあるほか、犬や猫など昔ながらのペットだけではなく、希少性の高い昆虫類や海外から輸入した動物もペットとして飼育されることが多くなっている。このような背景から、ペットにまつわるトラブルも増加しペット法務という分野も確立してきている。そのペット法務を開拓してこられた伊藤氏に、行政書士のペット法務にについてうかがった。 ■ 双方の視点をもって未然にトラブルを防ぎ、確かな解決に導く 伊藤先生は、いつごろからペット法務に携わっていらっしゃるのでしょうか。 13年ぐらい前からです。 当時、ペット法務は、どのような状況だったのでしょうか。 私がペット法務を始めたころは、「誰がこんな相談にのってくれるの?」というレベルで、保健所、環境省、厚生労働省、弁護士、誰に聞いても分からないという状況でした。 そういったものに着目されたとは、すごいですね。この分野は伊藤先生が一から構築されてきたのですね。そのペット法務は、どのような業務が多いのでしょうか。 ペットショップやトリマーなど動物取扱業の登録や輸出入手続(検疫等)、契約書作成やマンションの管理規約(ペット飼育規程)の作成など、ペットビジネスに関連する依頼が一番多いのですが、ペットのトラブルにおける示談書等の作成等もあります。業者側に立った業務が多いように見られがちですが、そのようなことはありません。例えば契約書作成については、ペットショップがどのように約束を取り交わしたいのかを丁寧に聞き取り、その上でお客様の立場でも満足できる内容を盛り込んで作成していきます。直接的には企業や店舗に向けての業務ですが、結局はペットオーナーへのサービスにもつながっています。 業者側、ペットオーナー側、双方の視点を持って当たられているのですね。 そうですね。双方の視点を持った行政書士であればこそ、未然にトラブルを防ぎ、発生してしまった後でも解決に導くための啓蒙活動ができると思います。 ペットのトラブルについてはどのようなものが多いのでしょうか。 基本的には、人間と同じようにペットも『ゆりかごから墓場まで』さまざまなトラブルが生じます。個人の権利意識の高まり、ペットビジネスの多様化、そして環境や動物に対する保護活動の活発化などもあいまって、トラブルの数は年々増加しています。比較的多いトラブルとしては、ペットショップとペットオーナーの間で生じるペットの売買に関するトラブル、そして騒音、臭気など典型的な近隣トラブルに関するものが挙げられます。 ペットのトラブルが発生した場合、ペットオーナーから直接相談が持ち込まれたりするのですが、示談書を作成して示談を交わすことで、裁判にまで持ち込むことなく解決することもあります。 ■ 行政書士がますます活躍するフィールドのひとつに 一昔前と比べて、マンションなど集合住宅でペットを飼えるところが増えていることもあり、ペットブームもあって、ペット関連の法律も変わってきています。 おっしゃる通り、動物の法律は進化しています。近年のペットブームや環境保全(生物多様化等)政策によって法律が整備されています。 最近は、海外から輸入された動物をペットにして、もてあまして飼えなくなると川などに放すといったことが問題になっていますが、その規制はどのようになっているのでしょうか。 そもそも動物愛護管理法第44条第3項で愛護動物の遺棄は禁じられています。また、特定の外来生物は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(外来生物法)で飼養や輸入等が規制されていますし、遺棄が禁じられています。したがって、飼えなくなったからといって川に放してしまうと処罰の対象となります。 実際に川などに放しているところを見つけにくいので、処罰も難しいですね。ただ、外来種が川に放たれて繁殖してしまうと、駆除にかなり手間がかかります。 駆除に関してはさまざまな試みをしているのですが、なかなかうまくいかないのが現状です。例えばブラックバスを料理するといったことをしていますが、いったん減ってもまた増えてくるということもあります。 水中にいる動物は捕まえるのも大変です。動物に関する法律はいくつぐらいあるのでしょうか。 私もすべてを把握していないのですが、動物分野全体を見ると200以上の法律があります。 非常に多いですね。犬と猫によっても規制が違うのでしょうか? 規制の仕方が違います。まず、分かりやすいところでは、犬と猫とでは販売時の説明書が異なっています。また、動物の登録に関しては、犬のみが対象となっています。 動物として犬と猫は基本的に別の生き物ですから扱いが違うのです。 牛や豚などの家畜はペットにならないのでしょうか。そもそも、ペットの基準はどうなっているのでしょうか。 牛や豚については「産業動物(※1)」として扱うことがほとんどで、ペットには通常あたりません。ペット(愛玩動物)とは、一般に愛玩用に家庭などで飼育されている動物のうち、特に愛玩飼育を目的として改良・繁殖が行われてきた動物種をいいます。動物の大きさなどではなく、動物の愛護および管理に関する法律で定められている「愛護動物」(※2)は一つの目安になると思います。しかしながら、同法で愛護動物にあたっている牛を愛玩という目的で飼う方はめったにいませんね。 ニワトリや豚でも愛護動物になったりするのですね。でも金魚やカエルはダメ。おもしろいものです。 2005年6月22日に動物愛護に関する法律「動物愛護管理法」が再改正され、業者が守らなければならない項目やペットオーナーが負うべき責任が増えました。法整備が進むに伴い、法律についての正しい知識と正しい運用がますます求められています。行政書士は、法律がどのように変わり、どのような対応が必要なのかということを、これからもきちんと伝えていかなければならないと思います。 2009年末時点で、日本における犬の飼育率は18.3%、猫の飼育率は11.2%(※3)と非常に高い数値が出ており、ペット法務は、今後、行政書士がますます活躍するフィールドのひとつとなると思われます。伊藤先生には、ペット法務のパイオニアとして今後さらにご活躍いただきたいと思います。本日はありがとうございました。
(※1)産業動物 ≪ご経歴≫ 行政書士ADR センター東京センター長 |