行政書士の活動範囲の拡大に向けて
畑 光氏 日本行政書士政治連盟会長
聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役
司法制度改革による司法サービス充実の一環で、各法律専門職同様、行政書士の業務も拡大している。各法律専門職の中でも特に行政書士は、弁護士、弁理士、司法書士など制限列挙された業務を担当する法律専門職と違い、新たに拡がってきているマーケットについて柔軟に対応することができ、その活躍が期待される。この激動の社会情勢の中での行政書士の業務の拡大について、畑光先生にお話いただいた。
■ 知的財産分野での行政書士の活動範囲
畑先生が、行政書士の発展のために、かねてから精力的に取り組まれてきたこともあり、行政書士の職域が拡大しています。これまで、知的財産分野の業務は弁理士の専門であると思っていましたが、行政書士にも業務があるのですね。
知的財産分野における弁理士の専権業務は、工業所有権である、意匠権、商標権、特許権、実用新案権の4つです。弁理士の中には、知的財産に関することはすべて弁理士の専管であるとおっしゃる方もいらっしゃいます。例えば、農林水産省所管の育成者権やその販売権の契約も、すべて弁理士の専管だとおっしゃるのですが、そうではありません。
行政書士と弁理士の職掌範囲は、どのように重なっているのでしょうか。
工業所有権の登録は弁理士の独占ですが、確定した権利を売買したり、使用許諾を得たりという契約や、著作権等の売買、譲渡、使用契約などに関する業務は民民間の契約書の作成で、行政書士法第1条の2(※)で定める権利義務の書類の作成にあたるので、著作権等の売買、譲渡、使用契約などに関する業務は行政書士の分野でもあるわけです。著作物には、音楽や絵画、写真といった文化系のものと、限りなく工業所有権に近いものがあります。後者は、弁理士の方々が中心の分野になってくると思いますが、前者については、行政書士も活躍できる分野です。
そのような重なる分野での棲み分け、法整備がもっと必要なのかもしれませんね。
現在、著作権は、すべて登録する必要がないものの、今後もっと多くの文化系著作物を登録するようになれば、行政書士の活躍の場がさらに拡がる可能性があります。
積極的に自分が著作権を行使しようとしたら、登録をする必要があります。年々、知的財産が重みを増す状況を見ましても、著作権の登録はますます増えていくのではないかと思われます。
しかし、今の制度では、登録が増加しても、なかなかスムーズに手続きできないと思われます。と申しますのも、最近私が聞いた話ですが、著作権者が亡くなってしまい、しかも著作権の相続がしっかりと行われていなかったため、使用許諾に非常に苦労したということがありました。著作権者本人が亡くなっている場合、使用許諾をする相続人がだれになっているのかを調べなければいけないのですが、そういったケースにおいては、手続きが煩雑で大変なのです。われわれ行政書士は、そういった状況においてもしっかりと対応できるよう、勉強しなければならないと思います。
わが国は、知財立国を目指していることからも、法律専門職の業務は、これから知的財産関連が多くなると思われますが。
知的財産制度の進展もあって、今、「資産評価士」という専門職をつくってはどうかという話が出ています。現在、資産のうち不動産の評価は不動産鑑定士がやっていますが、知的財産の評価は特に専門職が設けられておらず、資産評価の課題のひとつとなっています。「資産評価士」という専門職ができれば、その課題が解決するだけでなく、知的財産権を担保にお金を借りるといったことがもっとできるようになるなど、知財立国の発展にも寄与すると考えます。
それは素晴らしい考えですね。そうなった場合、不動産よりも知的財産の方が公正に取引でき、価値が出てくるかもしれません。知財立国に近づきますね。
そういったことも考えられます。
■ ADRにおける行政書士の範囲
ADRにおいて、行政書士はどのような分野を担当される予定ですか。
ADRで、行政書士が担当しようとしている分野は、外国人の就労就学、ペット問題、自転車事故問題、居住用財産の敷金返還請求・原状回復請求の4つです。敷金返還請求は、居住用に限っているため、われわれ行政書士の事務所のような事業用財産は対象ではありません。しかし、私は、同じ法律で、法文的に違いがあるわけではないにもかかわらず、居住用財産は扱ってよくて、事業用財産は扱ってはならないというのは、おかしいと思っています。これから他の専門職と調整に入っていく予定ですが。
事業と言っても、個人事業主がやっている場合は判断が難しいですね。例えば、1階にお店があって、2階にその事業主が住んでいる場合は、1階は弁護士が担当、2階は行政書士が担当となり、使い勝手のいい改正法とは言えないですね。事業主の方が困ってしまいますよね。
また、自転車事故問題にしても、自転車だけに限定するのはいかがなものかと思っています。自動車であれば、保険に入っているので、保険金を明確にできて、解決しやすいですが、自転車は保険に入っていない場合が多いため、解決が難しいのです。
したがって将来的には、行政書士の担当するADRの分野を、先に挙げた4項目以外にも増やしたいと思っています。実際、行政書士の専門分野は、4項目以外にも外国人の離婚や結婚、養子縁組など多数あります。
おっしゃる通り、自転車事故だけという切り分けも判断が難しいですね。そう考えますと、確かに4項目以外にも範囲を広げていく必要がありそうですね。
行政書士の専門分野は多種多様です。行政書士の歴史をひも解くと、資格ができた当初は、すべての省庁をカバーした書類申請の業務していました。それが、税に関するものは税理士、特許庁に対する書類作成は弁理士、法務局などに提出する書類は司法書士、社会保険や労働保険は社会保険労務士というように専門化した部分が抜け、残った書類申請業務はすべて行政書士が取り扱うという現在のかたちに至っているわけです。そういった、行政書士の特性、専門分野の広さをもっとアピールして、ADRでの活動範囲も拡大していければと思っています。
学問分野の哲学のようですね。はじめに哲学ありき。哲学から他の学問が分派していった。その点、新しい問題が、哲学から創造されています。今でもまず人生の難問はまず哲学者が取り上げます。行政書士は一般法ですから、新しい法律問題は、まず行政書士の先生が担当できるようになっているのではないですか。そうすれば全国各地にいて身近なまちの法律家たる行政書士の職域が広がり、市民の身近な法律サービスの充実にもつながります。ぜひ、畑先生には、さらにご活躍していただきたいと思います。
本日は、お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
※ 行政書士法第1条の2
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
≪ご経歴≫
日本行政書士政治連盟会長
畑 光(はた あきら)
1957年行政書士資格取得、現在、業務拡大・地位向上のために活動をする傍ら、国際行政書士協会(IGA)を開設し、後進の指導育成にもあたるなど、多方面で精力的に活躍している。著書に『許認可申請 Memo』(新日本法規出版・2000)など多数。