ニッポンのサムライ
マネジメントフロンティア
中地宏の会計講座
内部統制報告制度へ取り組む視点について

1.はじめに

内部統制の構築・整備・運用の評価を各フェーズごとに取組み、そして最終的には内部統制報告書にまとめることとなる。日本版SOX法適用初年度を迎え、内部統制報告制度の対象会社は、毎事業年度後3ヶ月以内に、内部統制報告書を有価証券報告書と併せて内閣総理大臣に提出しなければならない。企業の大半は、これから内部統制報告書を作成する最後のフェーズに入っていくため、本稿においては、内部統制報告書を作成する視点について述べてみたい。

2.内部統制報告書とは

内部統制監査の監査意見は、経営者による内部統制の有効性評価の結果を表示する内部統制報告書の適正性について表明される。よって意見表明の前提として、経営者によって内部統制の有効性が評価され、内部統制報告書を作成しなければならない。その内部統制報告書の標準的様式は図1に示す通りである。

内部統制の有効性の評価は、一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の評価の基準に準拠して評価をしなければならない。経営者は、これらの基準にしたがって、自ら整備・運用している内部統制の有効を評価するとともに、その評価を行なった旨を記載した内部統制報告書を作成しなければならない。

評価結果に関する事項には、以下の4つのいずれかにあたるかを記載することとなる。具体的には、(1)財務報告に係る内部統制は有効である、(2)評価の一部が実施できなかったが、財務報告に係る内部統制は有効である、(3)重要な欠陥があり、財務報告に係る内部統制は有効ではない、あるいは、(4)重要な評価手続きが実施できなかったため、財務報告に係る内部統制の評価結果を表明できない旨のいずれかを記載することとなるが、また、必要に応じて理由と共に記載されることとなる。

事業年度の末日後、内部統制報告書の提出日までに、財務報告に係る内部統制の有効性の評価に重要な影響を及ぼす事象が発生した場合、(2)事業年度の末日後に重要な欠陥を是正するために実施された措置がある場合、(3)事業年度の末日に、重要な欠陥があり、財務報告に係る内部統制が有効でないと判断した場合、(4)事業年度の末日後、内部統制報告書の提出日までに、記載した重要な欠陥を是正するために実施された措置がある場合には、「付記事項」に記載する必要がある。

内部統制報告書 (第一号様式)

図1 内部統制報告書 (第一号様式)

3.内部統制監査報告書とは

監査人は、一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の監査の基準に準拠して内部統制報告書の監査を行なわなければならない。経営者が作成した内部統制報告書は監査人の監査証明を受けることを要する(金融商品取引法第193条の2第2項)。

内部統制監査報告書の記載事項については、(1)内部統制監査の対象、(2)内部統制監査の概要、(3)内部統制報告書における監査意見、(4)追記情報等となる。とりわけ監査意見については、監査人が意見表明をするにあたり、(1)無限定適正意見、(2)限定的適正意見、(3)不適正意見にわかれる。

監査人は、内部統制報告書が内部統制基準等の規程にしたがって実施された有効性評価の結果について、すべての重要な点において適正に表示していると判断すれば、「無限定適正意見」を表明することとなる。

経営者が行なった記載について不適切なものがあり、その影響が内部統制報告書を全体として虚偽の表示にあたるほど重要ではないと判断した場合には「限定的適正意見」を表明し、適正に表示していないと判断すれば「不適正意見」を表明する。

監査人は、経営者が作成した内部統制報告書に重要な虚偽の表示がないということは、内部統制の評価が基準に準拠して行なわれており、評価結果と内部統制の状況が一致していることを意味する。

4.むすびに代えて

内部統制の整備、運用、評価作業を通じて、内部統制上の問題点を把握し、企業全体としての課題として改善を行なう一連の流れは、次年度以降も行なうことになる。

内部統制報告制度は、財務報告に係る内部統制として、財務会計にフォーカスされているが、そもそも内部統制とは、なにも財務会計のみに係るものだけではない。

この度の連載を通じて、内部統制報告制度における様々な視点をご提案いたしたが、各企業は自社におけるリーガルマインドを問いつつも、単なる法制度の対応だけでなく、それを超えてどのように内部統制を活用していくのか、長期的な視点を併せ持つことが今後必要であると考えつつ、筆を置き現場に戻ることとしたい。


森田 弥生 氏

森田弥生(もりた やよい)

公認内部監査人(CIA)/公認不正検査士(CFE)/法学修士

2000年中央大学大学院法学研究科卒業。新日本監査法人にて大手企業における SOX法対応および金融商品取引法対応に従事。 経済産業省委託調査「情報セキュリティ市場調査」WGメンバー(2007年〜現在)。 著書・論文に『内部統制の要点Q&A構築・評価・監査の実務』(金融財政事情研究会・2007)、「会社法務A2Z 特集 経営者による内部統制の評価」(第一法規株式会社・ 2008)他。「日本版SOXへ挑め! −内部統制活用術−」(六本木ヒルズ・ライブラリートーク講演2008)他。

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