1.はじめに
内部統制の有効性の判断とは、評価で識別された内部統制の不備が、単独または合算して財務諸表に重要な影響を与えるかについて判断することをいう。有効性の評価は、整備・運用状況の評価が進む過程において、随時実施されるものである。その過程で発見された不備について、早期に是正することが、内部統制の有効性の最終評価に大変重要となる。
そこで、第3回にてITにおける全般統制および業務処理統制についての不備について取り上げたが、今回は、主として不備への対応について述べてみたい。
2.内部統制の不備
内部統制の不備には、内部統制の整備状況における不備との運用状況における不備がある。整備状況における不備とは、内部統制の制度・仕組みが存在しない、または、存在しているが、その内部統制の制度・仕組みでは内部統制の目的を十分に果たすことができない状況をいう。つまり、内部統制のデザインそのものに問題があるか、または、そもそも設計が行われていない状況である。整備状況の評価を実施し、不備が発見された場合は、早急に整備状況を改善する必要がある。なぜなら、運用状況の評価は、整備状況の改善が完了し、再度、整備状況の有効性評価を行った後で実施することになるからである。逆に、整備状況の有効性評価が十分になされないままに、運用状況の評価に着手してしまうと運用テストの過程で不備が発見された場合に、かえって時間を労することもある。
他方、運用状況における不備とは、内部統制が適切に設計されていても意図された通りに運用されていない、または、内部統制を実施する者が、統制の内容および目的を理解していないことなどをいう。
整備状況の評価において、有効であったものの運用の徹底を図らなかったために、運用状況の評価の際に、内部統制が有効に機能していないという判断となることもしばしばある。
運用状況が有効でないと評価された場合には、その内部統制があらかじめ定められた通りに運用されるよう、業務の進め方を改善する必要がある。そして運用状況の改善が完了した段階で、再度、運用状況の評価を行うことになる。
3.不備の集計
不備を発見した場合、まずは是正を求め、是正後は、是正状況を適時に確認する。不備を是正するにあたっては、軽微なものその改善に時間を要するものまであるため、評価日程を検討する際には、不備への対応に必要な期間を考慮することとなる。その際に、是正後、期末日までに運用状況を再評価する期間を考慮することを忘れてはならない。
不備が発見された場合は、その内部統制の責任者と上位の管理者等に速やかに報告することが肝要である。そして、発見した不備を適時に認識し、適切に対応するために発見した不備は不備一覧表に記入し、発見した不備を是正するにあたっては、是正のし忘れがないように不備一覧表を利用して、把握するのも一つの方策であろう。
その際、不備一覧表に盛り込む項目としては、例えば資料1のように@不備の内容として、不備の説明、統制レベル(全社的な内部統制、業務プロセス等)、不備のタイプ、不備の生じた事業拠点、不備の関連する勘定・開示、不備の関連するアサーション等がある。そして、A不備の是正として、不備の是正状況や不備の是正後の再評価結果について記載する。さらにB代替統制と補完統制の評価として、代替統制の有無と有効性の評価、補完統制の有無と有効性の評価、C重要な欠陥を判定するために、集計した不備に対する結論から、重要な欠陥の判定についての記載などがある。
各拠点から報告された不備を集計し、重要な欠陥に該当する可能性について、適時に把握するために不備一覧表を利用してもよいであろう。一覧表を作成し、不備の内容への対応策や是正の経過を管理することで、期末までに重要な欠陥に該当する不備へ効果的に対応していくことができる。
4.代替統制と補完統制の評価
統制には、不備のある内部統制と同じ効力を持つ統制である代替統制と、その代替統制よりも統制の効果が低い補完統制がある。
【1】
代替統制とは、不備が発見された内部統制に代わり、財務報告リスクの発生を十分に低減できる統制のことであり、
【2】
補完的統制とは、財務報告リスクの発生する可能性や影響額を一部低減させる効果のある統制であり、不備が発見された内部統制を補う統制である。たとえ、1つの内部統制に不備があっても、補完する統制や代替する統制が有効に運用されていれば、リスクの発生する可能性を低減させることが可能である。
ただし、補完統制は財務報告リスクの発生を一部低減させる効果しかないため、有効であったとしても、不備の評価にて、財務報告リスクが発生する可能性および金額的影響をどの程度低減しているかを検討することが必要となる。
不備は、代替統制や補完統制により、リスクが低減されていることを確認することによって、重要な欠陥には至らないと判断することが可能な場合もある。仮に、代替統制がない場合は、不備の評価となってしまうため、内部統制の有効性の評価にあたり、あらかじめ不備が発見されることを想定し、代替統制や補完統制を識別しておくことも効率的である。それは、一つの内部統制によってリスクが十分に統制できるキーコントロールに設定していても運用テストにて不備が生じた場合には、補完統制や代替統制をもって、リスクの発生可能性が低いということが可能な場合もあるからである。このような代替統制や補完統制は、その他の内部統制と同様に、期末日時点での有効性を評価することになる。
5.むすびに代えて
内部統制の不備は、まず個々にその重要性を判断することになるが、発生可能性が低いと判断される不備については、不備の集計の対象外にすることができる。また、金額的重要性の判断基準に照らして、集計する不備の最低金額、すなわち、許容可能な不備を定め、それに満たない不備については、その対象外とすることができる。しかしながら、一つの勘定科目に複数の不備がある場合や、関連する不備が複数識別された場合は、一つ一つは軽微な不備であっても、総合的には重要な欠陥になる場合もあるため、充分に考慮することが必要である。
内部統制の有効性の評価において、不備がないということは考えにくく、早期に不備を発見し、改善していくことが望まれる。
森田弥生(もりた やよい)
公認内部監査人(CIA)/公認不正検査士(CFE)/法学修士
2000年中央大学大学院法学研究科卒業。新日本監査法人にて大手企業における
SOX法対応および金融商品取引法対応に従事。
経済産業省委託調査「情報セキュリティ市場調査」WGメンバー(2007年〜現在)。
著書・論文に『内部統制の要点Q&A構築・評価・監査の実務』(金融財政事情研究会・2007)、「会社法務A2Z 特集 経営者による内部統制の評価」(第一法規株式会社・
2008)他。「日本版SOXへ挑め! −内部統制活用術−」(六本木ヒルズ・ライブラリートーク講演2008)他。