指定管理者選定における現状と課題
第5回および第6回では、指定管理者を導入するに当たって必要となる、条例の改正あるいは制定に当たっての基本的な考え方について説明し、ようやく、指定管理者の選定について検討するための条件が整ったと考えている。指定管理者の選定は、これまでの議論とは異なり、私を含めた自治体の担当者にとって、極めて「現実的」な課題であると認識している。すなわち、指定管理者の選定は、指定管理者制度の趣旨である「住民価値」の向上に直結する重要な要因のひとつであると考えられるからである。
前回は、指定管理者の選定方法に関し、公募が必ずしも住民価値向上にはつながらないこと、そして指定期間との関係で、公募ではなく更新という考え方も視野に入れるべきであることを述べた。
前回述べた内容は、理想論であるかもしれない。例えば、他の施設との兼ね合い等から公募以外の選択肢がない場合もあろう。しかしながら、条例に定めるかどうかにかかわらず、こうしたことが、条例を制定する際の実質的意味合いとの関係で十分に検討がなされるべきであると考えている。
「重要な要因のひとつ」と申し上げたのは、第4回(評価改善プロセスの必要性と具体的な手法について)で述べた通り、自治体が経営責任を果たす上で、指定期間が始まった後に、施設の管理・運営状況を適切に把握し、サービスレベルの向上に努めることこそが重要であると考えているからである。既存法人を指定管理者に選定している事例では、さらにこの点が重要となろう。
指定管理者の選定については、多くの施設において、既存の法人を公募によらずに選定されている。官製市場の開放を期待した民間事業者からすれば、この結果を不満に感じるものと思われるが、私は、各自治体に個別の事情がある中で、既存の法人を指定管理者に選定することは否定しない。しかしながら、だからこそ、住民に対する経営責任を果たす上で、評価・改善プロセスが重要になるものと考えている。
この一方で、既存法人を含めて原則として公募とするとの考え方を基本としている自治体もある。各自治体それぞれの事情があるにせよ、既存法人が、法人ごとに存在意義を持って設立されたことからすれば、やや乱暴な考え方ではないかと感じている。しかしながら、指定管理者制度が導入された新しい地方自治制度の下での既存法人の存在意義や、将来的には公募による選定を行うための環境整備について真剣に考える必要があることは否定できないだろう。
この課題については、指定管理者制度の導入に付随するものではあるが、本連載の趣旨からはやや外れることから、別の機会に議論を譲ることとしたい。
こうしたことを踏まえて、本稿における主要課題である、指定管理者選定に関する基本的な考え方について検討していきたい。
選定プロセスにおける重要なポイント
選定プロセスには大きく分けて、(1)募集段階と(2)選定段階がある。(1)募集段階では、応募資格や審査基準等を事前に決定し、RFP(提案要求仕様書/Request For Proposal)を策定する。当然のことではあるが、住民に対する説明責任を果たすとの観点からも、募集段階において、事前に応募資格や審査基準が策定されていることが不可欠であると思われる。そして(2)選定段階では、事前に定めた応募資格を充足しているかどうか(形式審査)を審査し、次いで、審査基準に沿った審査を実施のである。公募によらない場合は(1)募集段階が省かれることになるが、内部的には、公募するときと同様の意思決定が前置することが必要であろう。
図1は、船橋市立リハビリテーション病院の選定プロセスをお示ししたものである。では、この選定プロセスにおいて、何に留意すべきであろうか。
図1
選定に当たっての基本方針
指定管理者の選定プロセスにおいて重要な点は、(1)透明性の確保と(2)公平性の確保である。
図2は、船橋市立リハビリテーション病院の指定管理者選定委員会の資料「選定プロセスにおける重要な措置事項」からの抜粋であり、図1の選定スケジュールは、この基本方針に沿って策定されている。
図2
基本方針においては、大きく3つの項目、すなわち、(1)透明性の確保、(2)民間の創意工夫の尊重、(3)公平な競争の確保、を定めている。この基本方針は、PFIを念頭に置いたものであり、当たり前の事項ではあるが、第1回選定委員会において、まず、これらの考え方について意思決定を経たことによって、その後の選定委員会における意思決定が円滑に行われたものと考えている。
これらの基本方針のうち、最も重要なものは透明性の確保であろう。前述した住民に対する説明責任の観点から当然のことであることに加えて、公募による場合には、民間事業者にとって魅力的な競争環境の一要因として、選定プロセスや選定結果に十分納得を得られるような透明性が確保されていることが重要であると考えられるからである。
以下、各項目および措置事項について、重要なポイントについて検討をしていきたい。
透明性の確保
透明性の確保において重要なことは、積極的な情報提供ということに尽きるだろう。情報提供については、住民等からの公開請求があれば公開すれば良いとの考え方があるが、「痛くもない腹を探られる」ことは、それ自体が官民連携の阻害要因となるのではないかと考えている。さらに、官民のパートナーシップ、すなわち、相互の信頼関係を構築するためには、透明性の確保という環境が整備されていることが不可欠ではないだろうか。
透明性の確保として3点挙げられているが、とりわけ、審査結果を具体的な点数によって公表することが重要だと考えている。客観的な評価は、住民はもとより、応募をした民間事業者にとっても、最も納得度が高いと思われるからである。
1点留意すべきこととしては、不選定となった事業者について、法人等の名称を含めて、審査結果を公表するかどうかという点であろう。不選定となった場合でも、審査結果が公表されるとした場合、応募を躊躇する法人等があっても不思議ではない。自治体によっては、すべからく公表すべきとの考え方もあると思われるが、公表によるメリットやデメリットを勘案した上で、応募が想定される法人類型や管理対象となる施設の規模等から個別に判断した方が良いように思われる。なお、船橋市立リハビリテーション病院の事例では、不選定となった応募者については、法人等の名称を含めて公表をしていない。
民間の創意工夫の尊重
民間事業者のノウハウ等の資産を最大限に活用するためには、いわゆる「性能発注」によるべきであろう。すなわち、要求水準のみ示し、その達成手段については、民間事業者の創意工夫に任せるとの考え方であり、この点はPFIと同様である。
問題は、審査基準である。性能発注の場合、「仕様発注」と異なり、評価者によって結果が異なる可能性が高い。そのため、事前に客観的な評価基準を定め、極力、評価者の恣意的な判断を排除するように配慮する必要がある。この点については、次回、具体的に検討したいと考えている。
公平な競争の確保
公平な競争の確保として、周知期間の確保と対象団体への案内文の送付が挙げられている。これらは、競争と呼べるだけの応募者を確保するための直接的な措置事項ではあるが、前述した、透明性の確保や民間の創意工夫の尊重といった項目も、間接的には公平な競争を確保するために重要な役割を果たしているものと考えている。
つまり、民間事業者にとって、応募するに値するだけの、魅力的な競争環境であるかどうか、という点も十分な応募者が確保できるかどうかという点に大いに関係しているということである。選定プロセスが明らかにされていない、あるいは創意工夫の余地がない、さらには十分な提案期間が設けられていない、といった状況では、応募に当たって躊躇することも十分に考えられる。もちろん、マーケットとしての魅力があるかどうか、という点が民間事業者にとっての最大の関心事となろうが、指定管理者というマーケットが、今後成熟するにしたがって、前提となる競争環境が整備されていくことが当然期待されることとなろう。
以上、今回は指定管理者の選定に当たっての基本方針を中心としてご説明したが、これを踏まえて、次回は、より具体的に、特に審査基準について検討していきたいと考えている。
船橋市立リハビリテーション病院ホームページはこちらから
松浦 年洋(まつうら としひろ)
船橋市企画部企画調整課(前・リハビリテーション病院整備室)副主査
1969年生まれ。立教大学社会学部卒業。1993年船橋市役所入所。総務部職員課にて公益法人派遣制度の導入等に従事した後に厚生労働省(医政局指導課)出向。厚生労働省では、主に医療法人制度の見直しを始めとする医業経営改革に従事し、病院PFI、医療機関債の創設、病院会計準則の見直し等を経験。船橋市役所復帰後は、人事評価制度の見直し、お客様の声データベースの構築等を経て、船橋市が2008年開院を目指し整備を進めている「船橋市立リハビリテーション病院」の運営企画業務を担当。2007年4月より現職。