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はじめに前回(第5回)は、条例改正等の手続的意味合いと実質的意味合いについて触れた。条例の改正等に当たっては、指定管理者制度を導入する上で、自治法が要請する手続的意味合いだけでなく、実質的意味合い、すなわち、指定管理者制度の導入によって住民価値を損なうことのないよう、最低限の質的側面が担保される仕組みが必要であることを述べた。 自治法の要請を踏まえた必要的記載事項について地方自治法上、条例に規定することが必要な事項として、
等がある。条例の制定等に当たっては、他の自治体の事例を参考として、条例にこれらの必要最低限の事項のみ記載すれば、手続き的には自治法上の要件は満たすこととなる。したがって、そこから先、どこまで詳細な規定をすべきか、ということについては、各自治体において他の施設等の規定などとのバランスを考慮しつつ決定される事項となるものと思われため、ここでは、できる限り簡潔に各記載事項について説明することとしたい。 1 指定管理者の管理 指定管理者制度を導入するに当たっては、自治法に「条例に定めるところにより」と定められている通り、まず当該施設について指定管理者が管理する旨を定める必要がある。
留意すべき事項として、条例の改正等を行わずに指定管理者の選定が可能かという点があろう。総務省の通達では「指定の手続」に関する事項として、申請の方法や選定基準等を定めることとされていることから、指定管理者の選定手続きを行うためには、原則として条例の改正等を行う必要があるだろう。 2 指定管理者が行う業務 「管理」という文言は非常に漠然としている。施設の維持管理に加え、運営をも含む非常に幅の広い表現である。このため、指定管理者が具体的にどこまで「管理」を行うのかを明確に定める必要がある。また、当然のことではあるが、この範囲を超えて、指定管理者に施設の管理を行わせることはできない。このため、指定管理者が行う業務を定めるに当たっては、十分に検討する必要があろう。 (1)利用の許可に関すること (2)利用料の収受に関すること(利用料金制を導入する場合) (3)施設および設備の維持管理に関すること等の事項を追加することになろう。 なお、医療施設独特の規定かもしれないが、利用の許可とセットで退院命令に関する規定が必要ではないかと考えている。施設内の秩序を乱した場合や利用料を支払わない場合のほか、船橋市の事例では、「診療の必要がないと認めるとき」についても退院命令の事由として規定している。医療の世界では、医療施設の機能分化が進められており、当該医療施設における必要な診療が終了した場合には、速やかに自宅への復帰、あるいは他の適切な医療施設等への転院を行う必要があるためである。こうした利用の許可等に関し、指定管理者の判断で行うことができることによって、事務的な煩雑さが解消されるほか、適切な医療連携が行われる前提になるものと思われる。 3 指定の手続 次回ご説明する予定の指定管理者の選定に関する話題と共通するが、指定管理者の選定基準等を検討するに当たっては、指定管理者制度のそもそもの趣旨に立ち返る必要があるだろう。すなわち、指定管理者制度は、「住民価値」向上のための手段であり、そのために民間事業者の有する「資産」、とりわけ、「ノウハウ」や「資金」を最大限に活用しようとするものであると考えている。 4 管理の基準に関する事項 管理の基準として、病院であれば休診日等の基本的な条件面のほか、指定管理者の秘密保持義務など、民間事業者が公の施設を管理するための基本的な事項を定める必要がある。また、施設を管理する上で清掃等の一定の業務を指定管理者が第三者に委託することが想定される。このため、この第三者に対しても個人情報の保護に関する事項を定める必要がある。 5 利用料金に関する事項(利用料金制を導入する場合) 利用料金に関する事項は、利用料金制を導入する場合に規定が必要となる。病院の場合、2つのお金の流れがあり、私は(1)利用料金型と(2)委託型と呼んでいる。いずれも原則として独立採算型の運営形態ではあるが、(2)委託型の場合は、病院の売上をいったん市の歳入としたうえで、その後に委託料として指定管理者に支払うという点で(1)利用料金型とは異なっており、病院事業会計を設けている場合は、通常、委託型になるものと思われる。なお、委託型の典型的な事例としては、横浜市の横浜市立みなと赤十字病院が挙げられるだろう。 6 その他必要な事項 その他の必要な事項としては、指定管理者に対する損害賠償等に関する規定が挙げられる。損害賠償については、本来は基本協定に定めれば足りるものと思われるが、求償権を行使しない場合など指定管理者に対する賠償責任を免除することが想定される場合には、条例事項とすることが必要である。 事業報告に関する考え方指定管理者制度が「事後チェック」に主眼を置いていることから、自治法でもそのための手段として、毎事業年度終了後に「事業報告書」を指定管理者に提出させることとなっている。事業報告書では管理の実績等について報告することとされているが、重要なポイントは、管理の実績等をただ報告させても、住民サービスの質的な担保になる可能性は少ないということである。 これまでに述べてきたように、評価・改善のプロセスにおいては目標の設定が重要であり、評価とは現状と目標とのギャップを知るための手段である。したがって、例えば利用者数や利用者満足度などについて管理の実績として報告させるとしても、そもそも指定管理者が達成すべき目標、あるいはベンチマークなどの手法により他の施設との比較をするといったことをしなければ、ほとんど意味のない数字だと考えるべきであろう。特に、管理に当たって委託料を支払っている場合には、本来はサービスレベルについて指定管理者と合意の上、達成できなかった場合には委託料の減額などのペナルティを設けることがPFIのスキームでは一般的であり、こうした業績連動方式がサービスの質的担保となっていることは前回(第4回)で述べた通りである。したがって、事業報告書の提出に当たっては、本来は目標に対する実績を報告させるべきであると考えており、そうしたスキームがない場合には、指定管理者から次年度の改善目標や改善に向けた措置事項を報告させるなどの工夫が必要ではないだろうかと考えている。 船橋市の事例では、事業報告書の記載事項として、市が定めた中期目標の達成状況についても併せて報告させることとしている。 今回までのところ、指定管理者を選定するための形式的および実質的な条件が整ったといえる。指定管理者の選定に当たっては、適切な能力を有する指定管理者を選定できるかどうか、という点に関心が集中しているものと思われるが、重要なことは、選定プロセスの透明性と公平性である。 適切な能力を有する指定管理者を選定したいという気持ちは(私を含めて)すべての自治体担当者にとっての最大の関心事項であろう。しかしながら、そのためには、民間事業者にとって魅力的な競争環境、すなわち選定プロセスが事前に明らかにされ、客観的な評価がなされると前提条件が整っていることが最も重要なことではないだろうか。 この点、公募か否かに関わらず、住民に対するアカウンタビリティ(説明責任)との観点からも、最低限の透明性と公平性の担保が不可欠ではないかと考えている。 次回は、こうしたことを踏まえて、指定管理者の選定に関する基本的な考え方について検討していきたいと考えている。 船橋市立リハビリテーション病院ホームページはこちらから 松浦 年洋(まつうら としひろ) 船橋市企画部企画調整課(前・リハビリテーション病院整備室)副主査 1969年生まれ。立教大学社会学部卒業。1993年船橋市役所入所。総務部職員課にて公益法人派遣制度の導入等に従事した後に厚生労働省(医政局指導課)出向。厚生労働省では、主に医療法人制度の見直しを始めとする医業経営改革に従事し、病院PFI、医療機関債の創設、病院会計準則の見直し等を経験。船橋市役所復帰後は、人事評価制度の見直し、お客様の声データベースの構築等を経て、船橋市が2008年開院を目指し整備を進めている「船橋市立リハビリテーション病院」の運営企画業務を担当。2007年4月より現職。 |