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 20世紀、21世紀へと向かう時代潮流の中で、情報、ノウハウ等の知的財産がわが国の産業社会に与えるインセンティブはますます強大になった。高度知識情報社会の到来により、わが国の産業構造もより高度化、複雑化する。近い将来、第4次産業として生産型商事会社が、また第5次産業として知識創造産業が日本経済の新しいバックボーンとして、膨大な社会的便益をもたらすことが期待できる。

 ところで、現在わが国では年間60万件に上る特許出願があり、世界一の特許大国となっている。

 特許、実用新案、意匠、商標(総称して工業所有権)の審査等を行うのは特許庁であるが、これまで世界に先駆けて特許出願、特許情報のオンライン化を導入するなど様々なプロパテント(特許重視)政策を講じてきた。また特許申請、特許権保護の実務専門家として弁理士制度が明治32年に創設され、弁理士はこれまで100年にわたり知的財産権の保護と産業育成に貢献してきている。そして、昨年と今年には特許法が改正され、損害賠償額の認定基準と訴訟手続の改善がなされた。さらに、近時判例は、特許発明の技術的範囲に関する権利保護と法的安定性の均等論を条件付で認め(最判平10.2.24、民集52巻1号113頁)、特許庁の行政処分により生成される特許権の射程範囲を定義付けるなど、官庁、司法、実務界を中心に特許制度の発展的改革がなされてきている。

 しかし、これまでの法改正程度では、国際社会でアメリカと競争するのに不十分である。

 アメリカは、国内産業の競争力と国際的優位性を維持するため、1985年のヤングレポートに基づいて、特許庁の強化、特許裁判所(CAFC:連邦巡回控訴裁判所)の設立など知的財産の保護に関する国内体制の整備を進めた。そして、対外的には通商法、関税法の改正により他国への制裁を振りかざしたり、WTO体制の下でTRIPs交渉を開始するなど、戦略的なプロパテント外交を推し進めている。その結果、日本企業が特許訴訟で敗訴し莫大な損害賠償金を支払わされるケースが多発したことは周知の通りである。また、ヒトのすべての遺伝子情報(DNAの塩基配列)を解読するヒトゲノム計画(1986年〜)では、国立衛生研究所(NIH)がDNA断片に関する2,400件もの特許出願をするなど(1994年に申請取下げ)、およそ研究の対象、発明の成果に拘らず、アメリカのプロパテント戦略はとどまるところを知らない。

 他方、わが国では特許訴訟に手間と時間がかかり、かつ損害賠償額が低すぎ、裁判所は「侵害し得」の状況を容認しているに等しい。司法による知的財産権保護も不十分なままでは、到底、アメリカのような新規技術開発も期待できない。

 そこで、わが国でも特許を始めとする知的財産を包括的に保護し、産業の強化、とりわけベンチャー企業の育成に資する政策を実施しなければならない。同時に、
権利保護と救済の担い手である弁理士の業務活動がさらに充実したものとなるよう、法制度の改革が喫緊の課題となっている。

 本提言は、このような観点から弁理士制度の改革とプロパテント政策を国家産業育成策の原点として位置付け、各論点につき具体的指針を示すものである。


目次
→【提言 1】 知的財産権基本法の制定 〜国家戦略としてのプロパテント〜

→【提言 2】 特許裁判所の設置

→【提言 3】 特許侵害訴訟における弁理士の訴訟代理権の承認

→【提言 4】 ディスカバリー手続の導入

→【提言 5】 裁判外紛争処理機能の拡充

→【提言 6】 弁理士の大幅増員 〜弁理士試験制度改革〜

→【提言 7】 弁理士研修制度の充実

→【提言 8】 弁理士事務所の法人化

→【提言 9】 総合的法律・経済事務所の開設

→【提言10】 特許の有効活用と情報の流通促進

→【提言11】 弁理士制度の一層の普及に向けて


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