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特集2 司法制度改革3
改革の第一歩は裁判所を市民に開放すこと

--さて、日本でも司法制度を改革しようと審議会が検討項目をまとめ、議論に入っています。この改革に期待されていることは?
「もっとも問題なのは裁判所の閉鎖性でしょう。参審制度、陪審制度もそれぞれ良い面があるでしょうが、そのような議論を始める前に、基本的な問題をきちんとしなければならない。まず司法の世界を開くことです。その第一歩は情報公開をきちんと行うことです。日本の法曹三者というのは社会から隔絶した、ひとつのコップの中にいるような存在ではないで
しょうか。コップの外側にいる市民の多くにとって、司法というのは自分とかかわりのない別世界の話で、万一裁判沙汰になれば、大金がかかってしまうという程度の認識しかもっていない。法治国家でありながら、市民は法に関する知識が与えられていないし、司法の側はきんちと与えようとしていないのではないでしょうか。
 司法改革は、まず裁判所という場所を市民に開放することからとりかかるべきでしょう。事実、ドイツでは、初めに裁判所を開放して、詩の朗読会や美術展を


開催、市民と交流することから始まったのです。そして、今や市民のためのサービス機関となっていますね。
 付け加えれば、司法制度改革審議会の委員の方々にぜひこの映画を観ていただきたいですね(笑い)」
--法曹人口を拡大する必要性はお感じになっていますか?
「相当、増やさなければならないでしょう。裁判官も弁護士も今の7〜8倍が必要なのではないでしょうか。裁判官1人あたり、どのくらいの国民を担当しているかというと、日本はドイツの約10倍ということですから。
 数だけでなく、転勤の問題もあります。約3年ごとに転勤を繰り返すという現在の裁判官の人事システムが妥当かどうか見直す必要もあるでしょう。転勤のとき、継続中の仕事はどうするかというと、いちいち引き継ぎを行うというのです。そのために費やされている労力と時間は相当なもののはずです。そして、短すぎる赴任が裁判官と地域とのつながりを稀薄にして、ひいては市民感情を分からなくする原因になっている思います」
--この映画で、観てもらいたい点は?
「これは撮りながら、気がついたことですが、日本の裁判官は、忙しい、忙しいと


言うけれど、裁判官だけが忙しいのではありません。それ以上に忙しい弁護士も多いのです。さらに考えてみれば、学校の先生だって、サラリーマンだって、忙しいということでは同じです。しかし、なぜそんなに忙しくしているのか、って考えることが必要ではないでしょうか。
 また、その人生を見ても、裁判官は3年ごとに全国を転々としながら、出世して、総括になり、最高裁の判事を目指すわけですが、その点、サラリーマンにしても、入社してから双六のように全国を回って、最終的には東京の本社に戻り、役員になることを願っている。まったく同じようなものなのです。上り双六人生ですね。
 撮影が進むにつれ、ここに写し出されていることは、裁判官の世界だけの問題ではないと思い始めました。そして、この映画が日本社会そのものを考え直すきっかけになるのではないかと考えるようになったのです。司法の世界は日本社会のひとつの典型なのです。裁判所という日本で最高のエリートとされる人たちの職場はこうです。あなたの職場はどうですか? と問いかけ、観た方が、『同じじゃないか』と感じていただくところがあれば、成功だと思います。この映画が司法の分野に限らず、世の中を変えることに少しでもつながれば、うれしいですね」


プロフィール

片桐直樹 氏 かたぎり・なおき
1934年、滋賀県に生まれる。
早稲田大学在学中より独立プロ運動に参加、山本薩夫監督に師事。
1967年、『裁かれる自衛隊』で監督デビュー。
一貫してフリー。現在、青銅プロダクション代表取締役。
代表作に『トンニャット・ベトナム』(1977年、日活)、『生きるための証言』(1984年、製作委員会)、劇映画『潮騒〜ある愛のかたみ』(1984年、青銅プロ)。
1978年から92年にかけて、ライプチッヒ映画祭国際審査委員を3回務めた。

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