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特集2 司法制度改革3
シナリオを全面的に書き替えることに

--日本の裁判所の現状はどのようなものでしたか?
「この映画では、もちろん日本の最高裁判所に協力を要請していました。弁護士からは『日本の裁判所に協力を得るのは難しいのではないか』と聞いてはいましたが、製作委員会の会長に日弁連の前会長に就いていただいたこともありましたから、さすがに最高裁判所も協力を拒絶はしないだろうと思いました。しかし、なかなか最高裁から結論をいただけない。回答を待つ間、ドイツのほうは撮影が順調に進みました。デュッセルドルフからスタートして、ドイツ中を回りまし
た。走行距離は6000キロに達しました。その撮影から帰国して、事務所に顔を出すと、『最高裁から電話があった』と。申し込むとき『ご回答は文書でいただきたい』とお願いしていたのですが、電話1本であっただけでした。
 それまでに聞いた話などをもとに、日本の部分も含めてシナリオを書いていたわけですが、最高裁の協力を得られないことになり、シナリオを全面的に書き替えなければならなくなりました。
 そのままでは『独々裁判官物語』になってしまいます(笑い)。この仕事にとりかかるまで、私は裁判を傍聴したこともあ


りますし、映画で法廷場面を撮ったこともあります。弁護士の友人も何人かいますが、本物の裁判官には会ったことがなかったのです。そこで、裁判官に会いたいと、知り合いの弁護士にお願いしました。ところが、『あの裁判官は司法研修所の同期だ』といっも、『会って話せますか?』とお願いすると、『いや、年賀状の交換くらいの付き合いだからね……』と裁判官に会うだけでも大変なわけです(笑い)。 それでも、裁判官ネットワークの方々のご協力もあって、どうにか現職の裁判官の方など何人かに出ていただけました。大変な勇気がいることだったと 思います。
 また現職の裁判官がもうすぐ退官するからと協力してくださいました。彼の発言は『最高裁が作っている映画であれば、みんな協力する。しかし、裁判官が必ずしも協力しているわけではない映画に裁判官が自由に出るということはない』という内容から始まるわけです。なぜなら、人事上不利益な扱いを受けることになるからだと。差別は具体的には三つあり、一つ目は任地で、希望するところになかなか行けない。二つ目は給与。三つ目は部総括裁判官(裁判長)の指名を受けられないというわけです。


 かつての裁判官に対する私の認識といえば、日本国憲法も裁判官の独立を保証しているのだから、裁判官に職務規定はないだろうといった程度だったのですが、日本の関係者の話を聞くうちに、独立して仕事に当たられているはずの裁判官が、実際には最高裁判所による統制を受けていること。また、日本の裁判所は閉鎖的で、国民の目から隠されていることが分かってきました。これは容易ならぬことだと強く感じるようになったのです」
--映画を観た人からさまざまな反応、反響があったかと思いますが。
「私は上映するとき、フォーラムを開催してくださいとお願いしているのですが、主催者は、よく『意見などなかなか出ないと思いますよ』と口にされるのですが、意外なほど大きな反響があります。さばくのに困るほど多くの発言があったこともありました」
--印象に残った観客の反応や意見にはどのようなものがありましたか?
「映画が完成した直後、昨年の5月3日に、有楽町マリオンで上映したときのことです。 この映画では、市民に開かれたドイツの裁判所が紹介した後、日本の最高裁の法廷の映像が写されます。最高


裁法廷の扉が開き、ひときわ高い法台の席に判事たちが厳かに着席していくシーンです。ただし、撮影許可がおりなかったので、NHKが撮影した最高裁の広報用フィルムを買って、『最高裁広報ビデオより』とクレジットを入れました。
 そのシーンで、日本とドイツの裁判所の違いが一目瞭然となって、会場が爆笑のうずになりました。ところが、そのとき一緒に観ていた司法関係者が『なぜ
客は笑っているのか?』と私に聞いてくるのです。市民感覚が見えていないのです。
 観客に取ったアンケートの中には、『コメディのようにおかしいが、現実であると思うと怖い!』というものがありました。その他、『愕然とした』『知らなかった』という反応が圧倒的に多いです。中には『裁判官がかわいそうだ』という声もありましたね」

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