日本は、少子高齢化が進み、働いて社会保険料を納める現役の労働者数が少なくなってきています。
このことは、日本にとって大変深刻な財政難を招きます。たとえば、このままでは、国に納められる社会保険料が漸減してしまい、私たちが当たり前に利用している健康保険や老齢年金等の社会保障制度の仕組みが破綻することにもなりかねません。
そこで、子育てや介護中で長時間勤務ができない方や、まだまだ活躍できる60歳以上の方等、継続して活躍することが難しい状況にある方が、それぞれの状況に応じた公正で働きやすい環境を整えて、現役の労働者としてがんばってもらえるよう法律を変えていきましょう、というのが主な目的です。
具体的な法改正は、下記の3本柱で行われます。
- Ⅰ 働き方改革の総合的かつ継続的な推進
- Ⅱ 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等
- Ⅲ 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
Ⅰ 働き方改革の総合的かつ継続的な推進
国は、働き方改革に係る基本的考え方を明らかにするとともに、改革を総合的かつ継続的に推進するための「基本方針」(閣議決定)を定めることになっています。
これは、具体的には、雇用対策法に反映され、公布と同時に施行されます。
1.題名と目的規定等の改正
(1)労働施策を総合的に講ずることにより、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実、労働生産性の向上を促進して、労働者がその能力を有効に発揮することができるようにし、その職業の安定等を図ることを法の目的として明記されます。
(2)「雇用対策法」の法律の題名を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」とされます。
(3)労働者は、職務及び職務に必要な能力等の内容が明らかにされ、これらに即した公正な評価及び処遇その他の措置が効果的に実施されることにより、職業の安定が図られるように配慮されるものとすることが追加されます。
2.国の講ずべき施策
労働者の多様な事情に応じた「職業生活の充実」に対応し、働き方改革を総合的に推進するために必要な施策として、現行の雇用関係の施策に加え、次のような施策が新たに規定されます。
- ① 労働時間の短縮その他の労働条件の改善
- ② 雇用形態又は就業形態の異なる労働者の間の均衡のとれた待遇の確保
- ③ 多様な就業形態の普及
- ④ 仕事と生活(育児、介護、治療)の両立
3.事業主の責務
事業主の役割の重要性に鑑み、その責務に、「職業生活の充実」に対応したものを加えられます。
労働者の労働時間の短縮その他の労働条件の改善など、労働者が生活との調和を保ちつつ意欲と能力に応じて就業できる環境の整備に努めなければなりません。←努力義務
4.基本方針の策定
(1)国は、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするために必要な労働施策の総合的な推進に関する基本方針(閣議決定)が定められます。
(2)基本方針に盛り込む他省庁と連携すべき取組について、厚生労働大臣から関係大臣等に必要な要請を行うことができます。
(3)厚生労働大臣は、基本方針の案を作成するに当たっては、あらかじめ、都道府県知事の意見を求めるとともに、労働政策審議会の意見を聴かなければなりません。
(4)国は、労働施策をめぐる経済社会情勢の変化を勘案し、必要があると認めるときは、基本方針を変更しなければなりません。
Ⅱ 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等
施行日は、平成31年4月1日予定です。
但し、中小企業における時間外労働の上限規制に係る改正規定の適用は平成32年4月1日、中小企業における割増賃金率の見直しは平成35年4月1日、それぞれ施行の予定となっています。
1.労働時間に関する制度の見直し(労働基準法、労働安全衛生法)
(1)長時間労働の是正
①時間外労働の上限規定の導入
時間外労働の上限について、月45時間、年360時間が原則となります。
但し、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)が上限になります。
○時間外労働が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととされます。(労働安全衛生法の改正)
- 経過措置
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行政官庁は、当分の間、中小事業主に対し新労基法第36条第9項の助言及び指導を行うに当たっては、中小企業における労働時間の動向、人材の確保の状況、取引の実態等を踏まえて行うよう配慮するものとされます。
<参照条文:改正後の労働基準法第36条>
7.厚生労働大臣は、労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするため、第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、労働者の健康、福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して指針を定めることができる。
9.行政官庁は、第七項の指針に関し、第一項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。 - 適用猶予・除外の事業・業務
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自動車運転業務、建設事業、医師等について、猶予期間を設けた上で規制を適用等の例外的な取扱いが定められます。また、研究開発業務については、医師の面接指導を設けた上で、適用除外となります。
- ①自動車運転の業務
- 改正法施行5年後に、時間外労働の上限規制が適用されます。
但し、上限時間は、年960時間とし、将来的な一般則の適用について引き続き検討する旨を附則に規定されることになっています。 - ②建設事業
- 改正法施行5年後に、一般則が適用されます。但し、災害時における復旧・復興の事業については、一か月100時間未満・複数月平均80時間以内の要件は適用されません。この点についても、将来的な一般則の適用について引き続き検討する旨を附則に規定されることになっています。
- ③医師
- 改正法施行5年後に、時間外労働の上限規制が適用されます。 具体的な上限時間等は省令で定めることとし、医療界の参加による検討の場において、規制の具体的あり方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得ることとされています。
- ④鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
- 改正法施行5年間は、一か月100時間未満・複数月80時間以内の要件は適用されません。改正法施行5年後に、一般則が適用されます。
- ⑤新技術・新商品等の研究開発業務
- 医師の面接指導、代替休暇の付与等の健康確保措置を設けた上で、時間外労働の上限規制は適用されないこととされています。
②中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し←平成27年法案と同内容
月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置が廃止されます。(平成35年4月1日施行)
③一定日数の年次有給休暇の確実な取得←平成27年法案と同内容
使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととなります。なお、労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はありません。
④労働時間の状況の把握の実効性確保
労働時間の状況を省令で定める方法(※)により把握しなければならないこととされます。(労働安全衛生法の改正)
※省令で、使用者の現認や客観的な方法による把握を原則とすることが定められます。
(2)多様で柔軟な働き方の実現
①フレックスタイム制の見直し←平成27年法案と同内容
フレックスタイム制の「清算期間」の上限が1か月から3か月に延長されます。
②特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
○職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、年間104日の休日を確実に取得させること等の健康確保措置を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とされます。
○健康確保措置として、年間104日の休日確保措置が義務化されます。加えて、①インターバル措置、②1月又は3月の在社時間等の上限措置、③2週間連続の休日確保措置、④臨時の健康診断のいずれかの措置の実施が義務化されます(選択的措置)。←平成27年法案 からの修正点
○また、制度の対象者について、在社時間等が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする。(※労働安全衛生法の改正)
2.勤務間インターバル制度の普及促進等(労働時間等設定改善法)
事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならないこととされます。
- 勤務間インターバル制度の普及促進
- 事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならないこととされます。
- 企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進←平成27年法案と同内容
- 企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組を促進するため、企業全体を通じて一の「労働時間等設定改善企業委員会」の決議をもって、年次有給休暇の計画的付与等に係る労使協定に代えることができることとされます。
3.産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等)
○事業者は、衛生委員会に対し、産業医が行った労働者の健康管理等に関する勧告の内容等を報告しなければならないこととされます。
←産業医の選任義務のある労働者数50人以上の事業場等
○事業者は、産業医に対し産業保健業務を適切に行うために必要な情報を提供しなければならないこととされます。←産業医の選任義務 のある労働者数50人以上の事業場等
Ⅲ 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
「働き方改革実行計画」に基づき、企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を是正するため、法改正が行われます。
具体的には、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の改正が行われます。
改正法の施行は、労働者派遣法の改正は平成32年4月1日、中小企業におけるパートタイム労働法・労働契約法の改正規定の適用は平成33年4月1日が予定されています。
1.不合理な待遇差を解消するための規定の整備
○短時間・有期雇用労働者に関する正規雇用労働者との不合理な待遇の禁止に関し、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨が明確化されます。また、有期雇用労働者を法の対象に含めることに伴い、法律の題名が「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に改正されます。
○有期雇用労働者について、正規雇用労働者と①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲が同一である場合の均等待遇の確保が義務化されます。
○派遣労働者について、①派遣先の労働者との均等・均衡待遇、②一定の要件(同種業務の一般の労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であること等)を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保することが義務化されます。
○また、これらの事項に関するガイドラインの根拠規定が整備されます。
2.労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明が義務化されます。
3.行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
上記1の義務や2の説明義務について、行政による履行確保措置及び行政ADRが整備されます。