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正しい法を正しく適用する

−初めに松澤先生が税の基本的理念とされている租税正義についてお聞きしたいと思います。
 「まず本来の国家と税との関係の在り方を認識する必要があります。国家社会というのは、人々が幸福を追求し、利益を確保するために作った共同体です。税はそれを維持・存続させるための費用ですから、構成員が共同して、これを分担するのが当然です。
  正しい法を正しく適用して、国家社会の費用を共同で負担していく。これが租税正義という考え方です。
  ところが、税法というのは、ともすれば財政収入を確保する見地から、いかに税金を多く取るか、取りやすいところから取るという考えになりがちです。私は
それを『国庫主義』と呼んでいます。それなれば、納税者に不公平感を与えることになります。『近代国家において革命が起こるのは、警察権力の不当な乱用と課税権力の濫用である』とよくいわれますが、私は税の正しい在り方を理解していないと、最終的には国家を崩壊させる恐れさえあると考えています」

−国庫主義を許しがちな原因として、納税者の意識にも問題がありますか?
  「税にはふたつの考え方があります。ひとつは、ヨーロッパ大陸型の考え方で、領主が必要とするだけ領民から取り上げるというとらえ方で、賦課課税と呼ばれるものです。もうひとつは先ほど申し上


げた費用を共同で分担するというアメリカ型の申告納税制度です。税については、そのふたつの考え方が対立しているわけです。戦前からわが国では賦課課税的な意識が強かったわけです。戦後、申告納税制度がとられた以上、われわれ国民はタックス・ペイヤーとして、共同費用を自ら支払う存在であって、税を搾取される存在ではありません。ところが、現実の社会を見ますと、その根本理念がほとんど理解されていません。そのような理念、租税正義を実現させること目的とした集合がTKC全国会なのです」

−松澤先生が会長を務められているTKC全国会についてご説明ください。
  「全国の税理士、公認会計士を集めた職業会計人の集団で、

来年が創立満30周年になります。租税正義を実現するための会計人集団という位置づけで、その狙いは、税法をすべてのものに正しく適用させることです。関与先企業は自らコンピュータによって申告の計算して、それを税理士が税務監査することで、適正な納税義務を実現することを考えています」

−申告納税の意識が稀薄である原因として、日本ではサラリーマンが会社に申告納税事務を任せていることも影響していると思われますか?
  「源泉徴収制度は予定納税ということで、妥当な制度と思いますが、私は現在の年末調整は違憲状態にあると思っています。


ちなみにアメリカの場合、サラリーマンは己申告納税制度です。なぜ日本がそうしないのかといえば、結局、企業に任せることで、国が楽をしているといわざるをえません。私は、現在のサラリーマンの年末調整は、憲法第29条第3項の『私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。』という規定に反する違憲状態にあると見ています。企業は従業員に給料を払って、税の仕事をさせているわけです。本来、それは国が行うべき事務のはずで、国は不当に利得していることになります。財産権の侵害として返還請求を起こして良いのではないかと思います。つまり源泉徴収制度そのものは合憲だとしても、なぜ、そこでかかった費用を経費として認めてくれないのかということです。
  最高裁の判決では、人を雇って事務をさせても、源泉徴収制度なら、1割天引きするのは簡単な作業で、しかも預かった間、金利を稼ぐという判断ですが、今のようなゼロ金利の時代に、それは成り立たない理屈です。
  また制度上の問題点として、家族の医療費など、個人情報が会社の担当者に筒抜けになってしまうというプライバシーにからむ問題もあります。
  申告納税制度の、すべての者が自ら税を負担するという理念からいっても、私はサラリーマンは自分で申告すべきだという立場を採っています」





 
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