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年金会計の導入の影響

−−企業にとって、積立金の不足など年金会計(注6)の導入の影響が大きいと言われています。これについてはどのようにお考えでしょうか? 「確かに企業年金は大きなインパクトをもたらします。企業が従業員の退職後に支給する給付には企業年金と一時金(退職金)がありますが、年金の部分が大きいわけです。年金の運用が高利で回っていれば、含み益が生じますが、現在、多くの企業が含み損を抱えているという現状があり、かつ運用利回りが低いという状況ですから、多額の債務を計算せざるを得ません。その状況が企業における退職金制度の変革を余儀なくしているのです。今、退職金制度が大幅に変わるとともに企業の人事施策が根本から動きつつあります。年金会計は企業の人事施策そのものに大きな影響を及ぼすことになる初めての会計基準といえるのではな いでしょうか。  企業会計審議会でも、退職給付会計の導入に際して、そういう損失の顕在化ということが謳われて、それに添った意見書がリリースされたわけです」 −−そもそも企業年金の損失をはっきりさせることがこの制度の目的だったのでしょうか? 「必ずしも損失や債務があるからそれを顕在化させるという役割ではありませんでした。アメリカで今のような形の精緻な退職給付会計が導入されたのは1985年ですが、導入の時点では、むしろ含み資産を顕在化させることが主な目的だったようです。1970年代の後半から1980年代の初頭にかけてのアメリカのセキュリタリゼイションの中で、年金の有価証券が含み益を有するようになったわけです。ここからが日本と違うのですが、アメリカでは、企業の年金に含み益があると、それは企業に帰属する扱いにするわけです。IRS(


国税庁)もそのように扱うとの見解を出しています。 『ウォール街』という映画がありましたが、マイケル・ダグラスが企業の情報を聞いて、買収の指示を出すシーンがありました。退職給付会計の歴史を調べると分かるのですが、当時のM&Aの半分以上はその隠れ資産を狙ってのものでしたから、おそらくマイケル・ダグラスもそういう情報をつかんで、M&Aをかける役柄だったと推測することができるわけです。」 −−その企業の価値をより正確につかむという目的だったと? 「それが本来の退職給付会計の基本的な目的でしたが、バブル崩壊後、日本の企業が置かれている状況を見ますと、この制度が人事制度とくに退職金にかかる制度の大幅な改革を呼び起こしています」 −−導入するには、いわば平穏なタイミングとはいえないもの の、年金会計は導入の必要があるということでしょうか? 「国際的基準と整合させるためには必須です。バブルの時代に退職給付会計が導入されていれば、もちろんその後、現在に至った段階では、似たような状況が出現したのかもしれませんが、今日のような、混乱とも言える事態までには至らなかったと思います。  ただ100%退職給与引当金で、年金一切無しという企業であれば、それほど大きなインパクトは無いわけです。経験的に言いますと、2〜3割くらい引当金の金額がアップされ、それが退職給付債務といったところです。しかし年金でやっているところは、年金資産の減額分もありますし、高い運用利回りを想定されて、資産運用すべき金額が設定されていますから、そこに大きな乖離が生じているわけです」

注6 「年金会計」 確定給付型の企業年金を実施している企業は従業員に対する年金の給付義務がある。 年金給付のための掛け金は毎期費用処理されるが、信託などで運用している年金資産や将来の給付義務は貸借対照表に計上しないが、国際会計基準では年金資産の時価評価額などを計上することになる。

 
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