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特集2 司法制度改革3
弁護士が企業に入れるように

反町
司法試験合格者が年間3000人くらいになると、今の体制では多過ぎて司法修習ができないと言われていますね。
    吉野
    われわれが3000人を認めたわけではありませんが(笑い)。
反町
訴訟だけ考えれば、弁護士が飽和状態の地域もあると思いますし、年間1000人程度を限界とすることも分かりますが、弁護士には訴訟以外にもやることがたくさんあります。 例えば、企業法務にもっと弁護士に入っていただきたい。知的財産権の問題、就業規則の改訂、会社の分割、株式公開と仕事はいくらでもあります。従業員1000人規模の企業であれば、本来、弁護士は最低10人くらいいなければ回らない。日本には上場企業だけで3000社あるわけで、企業法務部は多数の弁護士が配置できます。
    吉野
    個人的にはコーポレイト・ガバナンス(企業統治)の必要性は法の支配という観点からも、その重要性は十分、理解しています。会社組織の適正適法な管理、あるいは国際取引、会計の分野でさえ本来なら入っていかなければならないと思っています。弁護士の活動をいろいろな分野に拡げるべきだというのが基本的な日弁連の考え方です。国会議員もそうですが、官公庁職員、議員の政策スタッフに弁護士が登用されることも必要でしょう。地方自治法の改正で、地方自治体に対する外部監査人の制度もできました。私自身、ある地元企業の社外監査役をしていますし、地元の会長の時、福岡県と福岡市、北九州市などに弁護士を外部監査の任にあたらせてくれという運動をしました。
反町
企業に弁護士の力を入れる際、ハードルになっているのが弁護士法第30条第3項の「兼職及び営業等の制限」(注4)の規定です。この営業の許可は届出制程度の緩やかなものにするべきではないでしょうか。アメリカは届出もいらないわけですが。
    吉野
    日弁連内部でも議論していますが、なぜ禁じたのかという原則論があるわけです。弁護士が営利事業との関わりについてどうあるべきかという問いには、現行法どおりという考えもあり、もっと積極的に関わり、また関わり方も多様でいいという回答も当然あるでしょう。この原則についても当然見直しを含めて議論の過程で収斂されます。
反町
司法試験の合格者が増え、弁護士事務所に入れない人も出てくる。企業に入る許可が出ないのではないかと、就職を控えた若い人が困っています。企業のほうも、許可が出るかどうか分からないから採用できない。企業に勤めたい人がいて、企業も採りたいなら、規制する必要はないわけでしょう。
 また法務部の課長、部長のポストに弁護士登録をした者を置くことはコーポレイト・ガバナンスとしてきわめて効果的です。企業経営者にしてみれば、従業員は上司の命令であれば、聞かないわけにはいかないが、弁護士は容易に判子を押さない。自分の免許が剥奪されるわけで、非合法なこと、不当なことは通さない。それで日本の企業が一気に良くなる。弁護士を社外監査役にすることも同様の効果があるでしょう。商法を改正して一定以上の規模の企業は弁護士を社外監査役にするという規定を入れるよう働きかけてはいかがですか?
    吉野
    コーポレイト・ガバナンスなどで弁護士はいっそう役割を果たすべきだと思います。ただ、これも個人的見解ですが、審議会の「論点整理」が指摘するように日本社会における統治客体意識はまだまだ強すぎると思います。産業界においても不景気だから公共工事を発注してくれ、アメリカが自由化を求めてきたから規制してくれと、自由な競争の中で新しいビジネスを開拓して生きていこうという気迫と確固たる意思が見えない。アメリカ企業は行政訴訟も盛んに行います。SEC(証券等取引監視委員会)や司法省を相手にどんどん訴訟を起こす。日本企業は一方で現制緩和というけれども、規制によるぬるま湯の味が忘れられないところが多い。お上による保護を相変わらずもとめている企業が多い。せっかくの行政手続法をほとんど使わない。
反町
その点、私もまったく同感です。
    吉野
    日本では企業の従業員がトップの意を汲んですべてを行ってしまうのが、問題です。従業員や管理職も会社がピラミッド式で、雇用も流動化していないから、不正に目をつぶり真に会社、株主のためになることは考えず企業にしがみつく。
反町
失礼ながら、一般の日本の組織と対極にあるのが日弁連だと思います。1万7000人の会員一人ひとりが組織の在り方と関わりなく、他人の言う事を聞こうとしない(笑い)。日弁連の正副会長は選挙で選ばれるわけで、その決定が機関決定にならないのはおかしい。重要なことはすべて総会に下ろすなら、選挙の必要はありません。会則違反や違法行為をする以外、選挙がある以上、委任したと見なして、執行部が決定に責任をもたせるべきです。この激動の時代、そうでなくては対応できない。思想・信条、能力において立派な方が会長・副会長に就任されているわけですから、弁護士会としても、機動的な意思決定を可能にして、国民の付託に応える改革をすべきだと思います。
    吉野
    「基本的提言」にも「弁護士・弁護士会の自己改革プログラム」に一章をさいていますが、司法制度改革が進む中、日弁連としても自主的に自らの組織の在り方に再検討を加える必要がありますね。
反町
弁護士法の改正については今、改正案を誰が言い出すかということで、三すくみになっています。法務省も出しにくい、連立与党もやりにくい。それでも今の流れですと、議員立法という形になると思います。そもそも弁護士法の制定には戦後の弁護士の努力がありました。まず、日弁連自らが試案を出すことが将来を考えると望ましいかと思います。

注4 「弁護士法第30条第3項(兼職及び営業等の制限)」
 弁護士は、所属弁護士会の許可を受けなければ、営利を目的とする業務を営み、若しくはこれを営む者の使用人となり、又は営利を目的とする法人の業務執行社員、取締役若しくは使用人となることができない。


プロフィール

吉野 正氏 よしの・ただし

昭和21年、福岡県出身。
昭和45年、九州大学法学部卒、同年司法試験合格。


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