制度が異なりますから、単純な比較はできないとは思いますが、アメリカではトップマネジメントをはじめ企業内に多くの弁護士がいるのに対して、日本では弁護士法第30条の規定で弁護士が企業に入ることを弁護士会がコントロールしています。この状況をどう思われますか? |
高石
個人的には弁護士会の許可制度は撤廃していいと思っています。仮に弁護士が本来有するべき独立性を失って違法に荷担したといった問題が発生したときには、懲戒制度があるわけですから、それを適用したり、場合によっては刑事制裁という手段をとる。そういった自己責任の原則に移行していくべきではないでしょうか。
日本の法曹界には、裁判所、検察庁、弁護士会が一体となって司法制度を維持しようという意識が強くあるわけですが、そもそも役割の違いがあるわけです。利用者側から見れば、弁護士にはリーガル・サービスを提供する業という裁判官や検察官とは違った性格があるのですから、自ずから異なる側面が出てしかるべきです。裁判官と同じ意識をもって企業にリーガル・サービスを提供したところで、その企業が満足するかといえば、そうとはいえないと思います。
今後、司法試験の合格者は増加していくと思われますが、企業法務の機能を強化・拡充することは、法曹人口の受け皿としても有効とお考えですか? |
高石
そう思います。弁護士会としては、今後、弁護士が増えていくとき、仕事の場を多角化し、仕事の領域を開拓していくことは重要な役割となるでしょう。
現在も徐々に社内弁護士が増えつつありますが、基本的には日本企業の法務部の制度はまだ弁護士を中心とした構成となっていません。今後、法務部を発展させていくためには、やはり社内弁護士が増えていくことが望ましいと思います。
社内にいる人にとっては、資格は人を説得するツールになるというメリットがあります。交渉相手やトップマネジメントを説得する場合、資格がひとつの材料になるはずです。ビジネスマンにとって資格は不可欠の要件ではないが、大いに意味のあることは確かです。
社内弁護士はこれから増えていくと思いますが、それは弁護士の世界で、さまざまな形の競争が導入されることを意味します。社外の弁護士同士の競争は激しくなるでしょう。社内弁護士と社外弁護士も、依頼する側とされる側という立場ではありますが、そこにも一種の競争原理が働くようになると思われます。弁護士業界における競争は複雑化して、過酷になっていくと予想されますが、私はそれを受け入れていくべきだと思います。
企業が社内弁護士の制度を導入する時、注意すべき点はどのようなことでしょう? |
高石
弁護士というのは慎重にものを考える癖がついています。法律家の尺度でけで、法務部長の仕事をすれば、恐らくビジネスマンとの間にギャップが生じることがあるでしょう。弁護士会にも、企業内弁護士を育てるような教育プログラムがありません。また司法研修所にも無いのです。社内弁護士をどう養成していくかという問題もあります。
また大企業の法務部には優秀な方が大勢おられますが、弁護士のように法律実務の基礎トレーニングを受ける機会は少ないわけです。社内の研修や社外のセミナーなど教育を受ける機会はあるでしょうが、司法研修所のような徹底した教育訓練制度がないことは欠点のひとつでしょう。いずれにしても、企業法務に関する教育制度の充実が求められます。
最後に、企業法務部で活躍したいと希望されている方へアドバイスをお願いします。 |
高石
企業法務マンは、良いビジネス・センスを備えた法律家でなければなりません。そのためには、ビジネスについての勉強が不可欠です。企業が運営されるメカニズム、トップマネジメント以下、企業内の意思決定はどのような過程でなされているのか? そういう企業現象を的確につかみながら、自らの法律知識を磨いていくことが必要です。
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高石義一
愛媛県出身
昭和30年 日大法学部卒業
昭和32年 弁護士登録
昭和61年 日本IBM(株)常務取締役
平成5年 高石法律事務所開設 |
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