企業の法務部門と営業部門との関係についてお聞きしたいと思います。時には会社内において法務と営業が対立構造になることもあると思われますが? |
高石
「法務部に行くと、何でもかんでもNOと言われる」、そのようなビジネスマンの声があるなら、その企業の法務部長に問題があるのではないでしょうか。
企業の法務部は純粋な法理論だけで突っ走るのではなく、リーガル・リスクをきちんとマネジメントできる範囲で緩めながら、うまくビジネスを成立させる。一見、二律背反することのようですが、それは可能です。私は法律にはその程度の弾力性はあると思います。 重要なのはどこまで緩めるかという判断です。私はそれを「崖っぷちの理論」と呼んでいます(笑い)。崖があったとして、これを違法と合法の境界線とします。崖を踏み外せば、落ちてしまう。かといって、安全だけを考えて、あまり内側ばかりを歩くと、崖っぷちから見えるすばらしい風景を楽しむことができない。石橋を叩いても渡らないような法務部長は純粋な法律家としては優秀かもしれませんが、企業の法務マンとしては優秀とはいえません。危険を回避し、とにかく落ちないよう、できるだけ内側を歩こうとする法務部長ですと、彼が歩くラインと崖っぷちの間にあるビジネスはすべて犠牲になってしまいます。法的には安全かもしれませんが、ビジネスマンは不満を抱えます。
できるだけ崖っぷちを歩いて、きれいな景色を堪能しながら、決して違法の世界に落ちない。その判断ができるだけの知識や経験をもち、いざ意思決定に際しては勇敢に決断できる。そういう人が望ましい法務部長といえるでしょう。たんに守るだけでは法務部長は勤まりません。アグレッシブさが求められるのです。また法務部長がそういう意識をもっていれば、部下もそのように教育していくことができます。ですから、法務部長の選択は企業経営戦略上も、きわめて重要といえます。
法務と営業との理想的な関係とはどのようなものでしょうか? |
高石
法務という仕事の性格上、時にはビジネスマンとの対決が避けられないことがあります。対決を恐れていては予防法務はできません。逆に対決ばかりしていると法務が孤立してしまいます。そのあたりのバランスは難しいものです。
一般的に日本企業の場合、仲良くやっていこうという意識が強すぎて、対決を恐れる傾向がありますが、これからの時代、それは許されるべきではないと思います。欧米の企業を見ると、いろいろな部門からの主張をぶつけ合って、意思決定がなされています。日本の場合、議論を抑え気味にすることが間違いのもとになりかねない。今後、日本の企業はコンテンション(論争)を徹底的に行うべきだと思います。コンテンション・システムをベースにしながら、人の和を保っていける。これが理想的な法務部だと思います。同様なことは日本の社会全体についていえるかもしれませんね。
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