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Top Interview
第三章 国民の権利及び義務

第一八条 [奴隷的拘束及び苦役からの自由] 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
第二○条 [信教の自由] (1)信教の自由は、何人に対してもこれを保証する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
(2)何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
(3)国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
第二四条 [家族生活における個人の尊厳と両性の平等] (1)婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
(2)配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
第二六条 [教育を受ける権利、教育の義務] (1)すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
(2)すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
第二九条 [財産権] (1)財産権は、これを侵してはならない。
(2)財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
(3)私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。


反町
「基本的人権の章」と呼ばれる第三章はどのような条文が問題でしょうか。
    西村
    全般的に、国民の義務とは何かということに真っ正面から規定していません。国民の義務には勤労の義務、納税の義務以外、パブリックサービスの義務があるはずです。それには兵役の義務も入ります。日本は他国から様々なことを受け入れたが、それだけは入っていないのです。ヨーロッパでは、古代ギリシャ・ローマ以来、市民は兵士という伝統があり、それをもとにして近代的な憲法思想ができていますが、わが国の憲法はその部分が欠落しています。
     妙な解釈をされている条文もあります。第一八条は「奴隷的拘束及び苦役からの自由」ですが、リンカーンによって奴隷解放がなされた国と違い、わが国では奈良時代まで溯っても、人間を奴隷として売買する公の市場が存在したという歴史的事実はない。であるのに、なぜかこの文言が入っている。そのため憲法の精神から苦し紛れに奴隷的拘束を徴兵制とする解釈がある。
     徴兵制をアメリカ流にとらえれば、パブリック・サービスです。公に対する奉仕ということではボランティアと同じです。アメリカではパブリック・サービスを奴隷的拘束とは言いません。
反町
信教の自由と政教分離に関する第二○条はいかがでしょうか?
    西村
    自らが信じる神以外はいっさい認めない一神教の精神世界では、巨大な信仰勢力から国民国家の自主性を守るという意味において、信教の自由という概念に有効性があったことは認めますが、わが国では、ひとつの神を信じる宗教勢力が政治を壟断したという歴史的事実はありません。かの国の伝統をそのまま持ち込み、抽象的・原理主義的な解釈を加えたところで、日本の歴史的風土・精神的風土に合うのか疑問ですね。
反町
第二六条の「教育を受ける権利、教育の義務」ですが、主権国家では教育は国の存立を支える重要な柱です。現在の日本の教育はいかがお考えですか?
    西村
    憲法の条文がすべてを規定するのではなく、必然的に、背後にある社会的な事実が条文の根拠を補強するわけで、第二六条の規定と現在の教育の実態とを総合して考えて、教育を立て直すために、条文の改正が必要であれば、当然、そうすべきでしょう。
     他についても同様なことがいえます。第二四条の「家族生活における個人の尊厳と両性の平等」ですが、この背景には、共同体の拘束をいっさい受けず、自分が何を考えるかによってのみ行動する個人という抽象的な存在を尊いものとする思想があると思われます。このような考え方は、例えば、親を介護するという行為を遺産相続においてカウントしない現在の相続制度を招来しています。長男が両親を介護してきて、相続が起こった。独立して、別に世帯をもっている兄弟が集まってきて、「相続は平等に行われるべきだ。唯一の財産はこの家だから、売却して等分にしろ」と言う。長男は「では、俺はどこに住めばいいのか」と兄弟間に確執が生じる。そのようなとき、「家というのは売却して金に代える財産ではなく、生活の本拠となる場所であり、家族の思い出が集積した場ではないか」という説得は法的根拠を欠く、今の相続調停ではできません。これはやはり共同体の拘束から離れた個人が理想だという憲法の抽象的な思想に根差した弊害でしょう。
     イギリスに「わが家は城。雨や風は入っても、国王が入ることはできない」という格言があります。個人が権力から自由でいられるのは、家によって守られているからだという思想です。第二四条はあたかも「個人の尊厳」という花のように美しい言葉をもってきて、水槽に飾ったような印象を受けます。その花を権力から守ることができるのは、家があるからだという考えがない。
反町
いずれも日本の歴史観に立った解釈ですね。他には、いかがですか?
    西村
    第二九条第一項に「財産権は、これを侵してはならない」とありますが、わが国の税制は、これを侵しっぱなしですね(笑い)。怠けている人より、たくさん働いて多くの収入を得た人を敵視して、手にした財産を8割がたもっていくという税制ですから。
反町
経済がこれだけグローバル化して、所得が発生するのは国内だけでなくなっています。また違法に収入を得て、適切な納税をしていない人も多い。不当な所得も、使わざるをえないわけですから、所得が発生したときに税金を取るのではなく、むしろ消費するとき、消費者から取る。消費税や付加価値税のほうがこれからの税制として望ましいのです。
    西村
    大阪の「八百八橋」というのは、稼いだときに取らずに放っておいたからこそ、できたのです。江戸時代の大阪の橋は、淀屋橋を淀屋が造ったように、町人の申し合わせによって自主的に架けられたものです。大阪の「くい倒れ」というのは、食べて倒れるのではなくて、橋の杭を打ちすぎて倒れるというのが本来の意味です。今では、いかな上場企業といえども、自主的に淀川に橋を架ける財力はない。儲けたとき国が簒奪するからです。
反町
寄付にも税金をかけます。アメリカのように寄付を経費として認めればいい。
    西村
    そうです。自主的に学校も病院も美術館も建つ体制というのはひとつの理想ですね。より儲けた人からより多く取ったり、死んだら相続税で財産をあらかた没収するのでは共産主義社会です。私はおそらく日本で初めて予算委員会で相続税廃止を質問した議員だと思います。どうしても人が死んだら税金を取る原因が発生するという理由が理解できないのです。「人はまず死ぬ前に、生まれなければならない。では生まれたときにも税金を取るのか?」と質問したわけです(笑い)。
反町
相続税を取ることは、文化の継続性と歴史の否定にもつながります。京都など、町そのものが貴重な文化財といえますが、バブル崩壊以降、伝統的な町屋や庭園が更地になり、マンションが建つなど、その崩壊が顕著です。そういうことを防ぐためにも、ぜひ税制の見直しを考えていただきたい。
    西村
    文化が育ちません。今の日本文化は江戸時代以前にできたものです。
反町
法人税法は累進でなく比例なのに、個人の方にだけなぜ累進なのか。一生懸命に働き、国民の福祉や豊かさに貢献すればするほど、多くの税金を取られるという懲罰的税制では、まじめに働くことは悪いということになります。最近は政治家のみなさんも、立法については議員立法も含めよく対応されていますが、それに対応した税制を整えないと活動ができません。税制を切り離した法改正は意味がない。
    西村
    おっしゃる通り、本来、政治家にとって大切なのは税制です。今、政治家は大蔵省や経済企画庁の課長クラスの知識をペラペラしゃべれることが要件のようになっていますけれど。
反町
元来、国民の代表者とは納税者の代表という意味です。社会主義的税制を改革して民間主導の活力ある社会を前提にした発想に変える必要があります。
    西村
    私はとくにこれからの政治で一番の任務は税制だと思っています。あとは自由な領域に移っています。政府が経済活動についていちいち指図をすることはない。民間シンクタンクが経済政策を出せばいいし、企業を動かす人が浮沈をかけて選択すればいい。
反町
日本には、戦争中の国家総動員法によって、経済や税制の体制が作られ、それが未だに尾を引いています。中央官庁の強力な権限も残っています。国民の自由な活動、 今日の国際社会を切り開ける賢明な国民レベルを前提とした租税体系に変えていただきたいですね。
    西村
    国民の富は一度行政機構が吸い上げ、分散するのが良い方法だという思い込みが強すぎますね。
反町
やや話がそれますが、現在、事務次官経験者でさえ、共済年金の最高額は月30何万円とのことです。中央官庁の公務員が退官した場合、相当な額の年金を出すようにしたらいかがでしょう。その増加額の国民負担よりも、現在のように天下りで民間を圧迫している弊害のほうが遥かに大きい。
    西村
    なるほど。ただ、その前に税制改革ですね。日本の経済を立て直すのも税制です。その改革を断行して、官僚のトップにのぼりつめた人や幹部の生活を生涯保証する、そういう形を実現することが必要でしょう。
反町
税制はもっとフラットな形にする。一律10%の所得税でいいという説もあります。
    西村
    古代ローマの税制がそうです。単純にして明解という税法が理想です。

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