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21世紀の大学象とは?
従来の教育体系の限界


反町
ロースクール構想が浮上するなど、大学に実務教育を求める声が高まっています。裏返せば、現在の大学院制度に問題があるという指摘にほかならないと思います。その点、千葉大学の法経学部長として積極的な改革に取り組まれている手塚先生はどう思われますか?
    手塚
    日本の大学院は4年制の学部を卒業した人たちが入る制度として、戦前から続いている講座制を前提に作られています。その制度のままでは、新しい課題に対応しきれないという状況になっていることは事実です。法学でも、経済学の領域でも、ほとんどの新しい問題は従来の枠内では対応しきれません。民法、刑法といった基本的な法律の領域にも、そのような新しい課題がたくさん出ています。大学院改革の必要が叫ばれているのは、従来の教育体系では、それらに対応できる教育がなしえなくなっているためと思います。
反町
代表的な事例として、どのようなものがありますか?
    手塚
    民法の領域でいえば、今年の通常国会で審議された成年後見法があります。これは民法の一部を手直しをすればすむという問題ではなく、総合的な視点が必要な問題なため、戦後の民法改正後、ずっと対応できなかったものです。刑法でも、いわゆる自然犯的刑法犯と並んで、経済犯罪が非常に多くなっていますが、こういうものは従来の刑法の領域というより、“第三の領域”としての意味合いが強いわけです。
反町
かつて、その法律を作ったときとは、社会的背景、社会的システムがまったく変革している。それも連続的にではなく、断続的に変革している。そのため、新しい社会背景に応じた法制度を作らなければならないということですね。
    手塚
    特に民法などはその傾向が著しいのです。例えば、戦後の相続法で法定相続は均分相続が基本となっていますが、社会の動向を見れば、これを変えていかなければならないでしょう。日本の相続制度は遺言を原則とするものではありませんが、今後、高齢者の面倒を家族がみないことが一般化していくなら、ヨーロッパやアメリカのように遺言相続にして、面倒をみてくれる人に相続財産を与えるように変える必要がある。そうするならば、税制度も関係してきます。日本は相続税に比べて、贈与税の税率が非常に高く、均分相続が最も相続税の税率が低い。これでは社会の変化という事態に対応できません。ヨーロッパやアメリカなどの介護を見ると、自分の面倒をみてくれる子供に対して生前贈与し、負担付贈与契約を結ぶ。親子間も契約関係というのが一般的という状況になっています。
     そのように最先端の問題では、民法は民法、税法は税法とバラバラに取り組んでいては解決できない案件が増加しています。それらを的確にとらえるには、複合的な観点が重要です。その点において、今までの大学教育では不十分で、むしろ古典的なものを中心の勉強になりがちだった。古典の研究そのものは否定すべきではないが、日本の大学教育はあまりに固定化されたアプローチであったという面はあるでしょう。
反町
今の大学のシステムは決まりきったことを、決まりきったように行うにはいいが、変革にまるで向いていないということですか。
    手塚
    国立大学は予算にしてもそうです。私は近々、ヨーロッパに出張に出ます。ウィーン、ミュンヘン、ベルリンと回るのですが、日程を変更するたびにいちいち書類に細かく記入して、手続きを繰り返さなければならない。そういうことがたくさんあるのです。
反町
もっと柔軟で、スピードある対応が必要ですね。
    手塚
    今、独立行政法人の話が出てきていますが、結局、何かやろうと思えば、民間活力という方向に行かざるをえないのでしょうね。

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