成年後見制度の発想を根本から変えるべきと指摘されましたが、どのようなことが条件になるでしょうか?
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額田
「日本弁護士連合会は諸外国の制度を研究したうえでドイツ法を参考にして成年後見法大綱を作成しました。その考えの一部は今回、補助に採用されましたが、日弁連の大綱と今回の法案は基盤がまったく異なるものです。ただ、社会の成熟度まで考えるならば、今回の法案の内容は現実的な線といえるのかもしれません。
ひとつは契約概念です。自分のことは自分で決める、自己の意思を尊重して、権利を守るというような契約の元となる考え方が一般国民の意識として定着しているのかということです。
第二の問題は社会全体で援助制度を支え合う基盤が形成されているのかということです。 また立法の技術的なことでいえば、ドイツの法改正は社会保障を担当している役所と法制を担当する役所、つまり日本でいえば厚生省と法務省とのしっかりと連携していましたが、日本の場合、縦割り行政があり、今回、法務省限りで進めざるをえなかった部分があることは否定できないでしょう」
額田
「心理面で変化があるとすれば、禁治産と違って、戸籍にその旨が記載されないようになることでしょう。これを社会がどう評価するのか。ふたを開けてみなければわかりませんが、かなりの影響を与えることになるかもしれません。
基本的には、社会全体に誰もがこの制度にお世話になる可能性があるということが周知のことになって、仰々しい制度でないことが理解される必要があります。いくら禁治産者から、被後見人と名称が変わったところで、一種の“レッテル貼り”の面が残るようであれば、利用者はそれほど拡大していかないかもしれません」
成年後見の問題をつきつめれば、市民社会の成熟といった問題に当たるということですね。
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額田
「先進的なドイツの法律にしても、その基盤には教会や福祉団体が活発にボランティア活動を行っていたという背景があるわけです。そのような組織に法人格を与えて、国家補助を入れれば、後見人の養成機関にすることができる。イギリスでも、福祉ボランティアが幅広く活躍しているわけです。そういう基盤がないところに突如、制度だけを作ってもうまく機能しない部分があるのではないか。今後、理想的な後見制度を日本に根づかせていくためには、社会の成熟という要件が欠かせないと言えるかもしれません」
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