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4 中国における弁護士資格の取得 |
中国で弁護士となるための最も一般的な方法は、弁護士資格試験に合格することです。1986年に始まった試験は、1992年までは2年に1回だけ実施されていましたが、1993年以後毎年1回実施されるようになりました。1997年1月に上記の弁護士法が施行されたのに伴って、弁護士資格全国統一規則も施行され、現在ではその資格要件や実施要領について透明性が確保されています。これによると、試験に参加するためには法学系の大専(専門学校と大学の中間のような存在)卒業又は非法学系の大学学士以 |
上の学歴を有することが必要です。日本では大学教養過程修了以上という学歴水準が一次試験免除の要件となっていますが、一次試験から参加しさえすれば誰でも受験できるのに対し(但し、日本でも実際上は一次試験参加者は非常に少ないのではないかと思われます)、中国では制度上一定の学歴が要件とされているわけです。 更に重要な要件としては国籍要件が挙げられます。すなわち、試験に参加するためには中華人民共和国の国籍を有していなければならず、外国人、香港人、 |
マカオ人及び台湾人には参加資格が与えられないということです。以前には香港人に門戸が開放されたこともありましたが、現在は再び閉じられています。なお、中華人民共和国の立場、すなわち国際法的に確立された立場からすれば香港、台湾には中国の主権が及び、マカオについても1999年12月20日より中国の主権が及ぶこととなるわけですが、これらは別の法域に属し、従って法を司る弁護士の資格はこれらの地域の者に対しては与えられない、という理屈付けになるものと思われます。この点、日本は |
外国人に対しても司法試験の門戸を開放し、(かつては問題となりましたが)現在では司法修習制度も開放しているのと比べ、中国は閉鎖的であるということもできます。しかし、日本の場合には日本語という事実上の障壁があって、アメリカの弁護士試験等とは違って日本語を母国語レベルとしていない者が合格することは至難であるという問題があることを指摘しておかなければなりません。 弁護士資格試験は毎年10月に実施され、合否は当該年の12月に発表されます。試験は、2日間にわたり、それぞれ |
午前、午後3時間ずつ合計4つのパートに分かれています。第一パートは憲法、法学理論、行政法等の公法分野について、第二パートは民商法、民事訴訟法分野について、第三パートは刑法、刑事訴訟法分野について、それぞれ択一式試験が行われます。択一式には単数回答、多数回答の双方が存在します。第四パートでは分野を特定することなく幾つかの事例が出され、これについて法律を適用して一定の分析、回答を導き出すという論文式試験が行われます。予めどの科目の事例であるかを予告され、か | つその科目に関する論点のみを論ずることを要求されている日本の論文試験と比べて、より実務的な分析が要求され、その意味でニューヨーク州の弁護士試験等に近いものということができます。興味深い点は、択一式試験の一部に外国語の試験が含まれていることであり、受験者は英語、日本語等の主要な外国語の一つを選択できることとなっています。そのためか中国の受験生は比較的語学を重視しているようであり、また、日本ほどに弁護士資格試験が難しくないことも手伝ってか、日本の司法試験受験生の |
ようにとにかく受験時代は試験科目の勉強に集中して合格してから「さあ語学を始めよう」というような雰囲気とは違います。 試験は各パート100点、合計400点が満点であり、合計で240点以上とれば合格とされます。つまり、中国では絶対評価基準が採用されているわけで、合格者数は毎年一定していません。日本や韓国のように国家がコストを負担して司法修習制度を維持している国と違い、中国はアメリカと同様にあくまで資格試験と捉えているに過ぎず、資格を与えた後の |
業務に対して何らの保証もしていないわけですから、合格者数の多寡には無頓着です。日本では合格者数増加が叫ばれ、長年にわたる改革の結果としてようやく1000人となったわけですが、中国では1万人を超える合格者が出ることもありえます。それでも合格率は10倍程度といわれています。 合格した者に対しては、弁護士資格が与えられますが直ちに弁護士業務に従事できるわけではなく、資格取得後1年以上実習弁護士として弁護士事務所で研修を積むなど一定の要件を満たした |
後に初めて審査の上、執務許可証というライセンスを取得できることとなっています。つまり、試験合格、資格取得、実習、執務許可証取得というプロセスを経て初めて名刺に「律師」と書くことができるようになるのです。 ところで、中国で弁護士になるためにはこのような弁護士資格試験以外にも別のルートがあります。法律の研究、教育に携わり、所定の高級職位を有するとか、海外に留学して法学修士以上の学位を取得した者等は司法部に申請して特別認可を得ることによって試験、実習 |
という手順を省略して、いきなり執務許可証を取得して弁護士業に従事することができるようになります。日本でも大学の法学部の助教授以上を一定年数以上努めた者に弁護士資格が与えられる等の特別ルートは用意されていますが、中国のそれは、まず第一に要件が低い、第二に基準が明確でなく認可機関の裁量の幅が広い、という二つの特徴を指摘することができるでしょう。この特別認可弁護士も毎年少なからず誕生しており、海外留学帰りの者で中国法は弁護士ライセンスを取得してから勉強し始めたに |
もかかわらず、外国企業を相手に相当活躍されている先生も珍しくないという状況です。そもそも弁護士資格試験自体が上記のように資格試験として比較的低いハードルが設定されているということからも分るように、中国はとにかく門戸を広げて後は「実力の世界」というアメリカ | にも似た開放体制にあり、その代わり弁護士のレベルも収入もピンからキリまでという状態です。日本のようにハードルを高くして、合格した後は厳しい競争に曝されないように保護されるという非市場経済的なやり方はむしろ世界的には稀なことのようです。 |
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