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米国特許弁護士 服部健一 |
モーションの結果 ホテルに缶詰になって数日過ぎた。いよいよ明日からは訴訟が開かれる。ベルベスコスとコーヒーを飲みながら作戦を練っていると、ワーグナー弁護士がどたどたと駆け込んできた。 「我々のモーションに対する判事の決定が出たぞ!」 「何!とうとう出たか!」 ベルベスコスが100メートルダッシュをしてきたかのような汗まみれのワーグナーの顔を見た。彼は決定文書を握りしめていた。殆どぐちゃぐちゃだ。ベルベスコスの顔に不安が横切った。 「どういう結果だ」 「訴訟は有効、ベストモードの違反もないというものだ」 ベルベスコスの口がポカンと開いた。 何と判事はモーションを全面的に否定したのだ。 「ということは公判ではウィルソン社の製品が特許を侵害しているか否かのみを陪審員が評決するのか」 と、私が言うと、 「うむ...」 と、ベルベスコスが腹の底から絞るような声を出した。手で拳を握りしめ、小刻みに震えている。 「くそっ!」 ワーグナーが決定文書を床に叩きつけた。 「こいつはヤマザキ・メディカル社に圧倒的に有利になるな」 私は思わず言ってしまった。 「それにしても一方的ですねえ。判事は何も最終結論を自分で出さずに陪審員に公判で決めさせても良かったのに」 と安斎弁理士が付け加えた。 「まあな」 ベルベスコスが必死に自制して、自体を落着かせた。 「法廷でベストを尽くすしかない。それだけだ」 いつの間にか室にはエムハルト、ズレイタスも入ってきていた。全員が一言もしゃべらず、床に叩きつけられた文書を凝視していた。 (最終回へ続く)
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