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カテーテル特許訴訟の逆転劇 米国特許弁護士 服部健一
米国特許弁護士 服部健一

証言の代読
「ところでケン、ちょっと相談がある」
「何だ?」
「ヤマザキ・メディカル社の発明者達5人は、全員が全員とも「少なくとも約10℃」という補正を何故行ったか全く知らないと言い張っていただろう」
「ああ、その通りだ」
「陪審員のいる公判ではその証言記録を日本人に読ませたいんだ」
「なるほど」
 公判ではデポジションでの証言記録を読み上げることが許される。証人達の証言に矛盾があった場合に突っつくためである。普通これは弁護士がデポジションの記録を読み上げるものだ。しかしベルベスコスは新しい戦略を思い付いていた。
「誰かいい候補者がいないかな?」
 うーん、と私は考えた。これはワシントンにいる日本人なら誰でもいいというものではない。単に読み上げるだけと言っても弁護士からいろいろ指示があるため、かなり英語を理解できるものでなければダメだ。そして神経が細すぎるのも公判で立ち往生する可能性があるのでダメだ。肝っ玉が座っているヤツがいい。
「うん、私の知っている男でいい候補者がいる」
「そいつをすぐここに連れてきてくれ」
「すぐ試すのか?」
「そうだ。今から準備しなければ間に合わない」
 わかったと言って私はすぐその男に電話した。彼は昔アメリカでスキーを教えており、最近ワシントンD.C.へ引越してきて、イディア・トラベルという旅行会社を経営している藤山雄一郎という男だった。しばらくして藤山氏は車ですっ飛んできた。
「やぁケンさん、私に裁判の手伝いをしろだって?」
「そうなんだ。こちらはスペロ・ベルベスコス弁護士といって、この訴訟のリード・カウンセルだ」
「やぁミスター・フジヤマ。是非手伝ってもらいたいことがある」
「私のことはフジと呼んで下さい。で、手伝いって何ですか?」
「証言記録を法廷で読み上げてほしいんだ」
「英語の?」
「そうだ。ここにそのコピーがある」
フジはざっと目を通した。背は低いががっしりしており、顔は日に焼けて精悍そのものだ。ベルベスコスがこの男ならとだまってうなずいた。
「どうやって読むんです?」
「私が弁護士の質問を読むから、君がその後に証言を読んで、証人が発言したようにすればいいんだ」
「まあ簡単そうだな」
「そうか、やってくれるか。ありがとう。とりあえず読んで、練習しておいてくれないか」
こうして藤山氏も法廷に参加することになった。
 ベルベスコスが他の用で去ると藤山氏が聞いてきた。
「ケンさん、これは仕事かね?」
「当然そうだ」
「じゃあ費用を請求していいのかい?」
「勿論」
「いくら位?」
「そうだな我々の弁護士の費用は1時間200ドルだから、1時間150ドル請求してくれ」
「ゲッ! そんなに請求していいのかい?」
「まあ、これは訴訟だ。他にこの仕事をできる者はそうはいないんだ」
やっぱり弁護士費用は高いんだなという表情で私を見ていた。確かにスキーの講習費用よりは高いだろう。
「でもこれで君もゴルフ代の何十回分位は稼げるだろう」
そう言ってやると藤山氏はニヤッと笑って白い歯を見せた。我々はワシントンD.C.のゴルフのトップを争っており、共にハンディは6、7というところだ。
 こうして藤山氏は証言の代読の練習、そして私と安斎弁理士は訴訟手続きの打ち合わせをベルベスコス達と行っていった。




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