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ベトナム

 ベトナムの法形式とその課題


課題

(1)法律の委任

 法形式で解説したとおり、国会で採択される法律の数は、少ないが、政府の議定や各部の通知の制定数は、非常に多い。法律や法令には、その条文の中で明確に政府に対して施行細則の制定を委任しているものもあれば、そうでないものもある。政府のみならず、各国家機関等は、法規規範文書制定法に基づく制定権限により、法律又は法令の委任がなくとも、法規を制定することができる。また、委任がある場合でも、包括的な委任となり、法律制定機関である国会を形骸化させる傾向を指摘せざるを得ない。

 日本においては、内閣は、政令を制定することができるが、「法律の委任がなければ、義務を課し、又は権限を制限する規定を設けることができない」と内閣法第11条で規定されており、罰則なり、国民の権利義務に関する規定を設けることは、法律の専属的所管事項に属す。

 ベトナムにおいては、前述のとおり、日本の政令に相当する政府の議定には、法律の委任を受けず、法律や法令がカバ−していない領域の内容を規定しているものが多く存在する。しかも、それらの多くは、罰則や人民の権利義務に関する規定を設けている。さらに、日本においては、再委任、つまり、法律が政令に委任した事項を、政令で更に省令(各省大臣の命令)に委任することが許されてないと考えられているが、ベトナムの場合には、前述のとおり、再委任があろうがなかろうが、各部等の国家機関の制定権限に基づいて法規を制定でき、かつ、かかる法規(例えば、財政部の通知など)には、罰則等の規定を持つものが多い。ただし、下位法規には、憲法をはじめとする上位法規に抵触する内容を規定されてはならないという原則がある。ゆえに、議定や通知などの前文には、根拠上位法規が明記されているものが多い。

 上記の委任の問題は、日本においては、「国会は、唯一の立法機関であるとする憲法の根本建前を無意味にさせるような包括的な委任は許されない。」という考えによるものであるが、ベトナムの場合には、上記のとおり、日本と異なる。

(2) 公表されない法規の存在

 国家秘密に属する文書は、別にして、制定された法規がすべて公報に掲載されることが必要と考える。とりわけ、ベトナムの場合には、下位法規であっても、人民の権利義務や罰則の規定を設けているものが多いので、ぜひとも必要であろう。さらに、ベトナムは、各種行政処罰に関する法規(例えば、銀行領域、労働領域、納税領域、土地の管理及び使用領域など)を制定しているが、「処罰の根拠」として、例えば、「公報に掲載されている法規の規定」とするなどの基本的ル−ルが必要ではないだろうか。実は、この種の問題は、行政処罰のみならず、裁判所による審理の際の適用法規の問題にも言えることである。

(3) 下位法規の条文の問題

 ベトナムの各部等の制定する法規文書の条文の質は、国会で採択される法律などと異なり、決して良いとは言えない。法規によっては、制定した機関や起草した者でないと、理解できないものもある。この点については、ベトナムの国会常務委員会や司法部も認めている。さらに、上位法規や関係法規との用語の統一及び用語の定義についても、一層の改善が必要と考える。

 ベトナム政府は、このような問題に対して、97年9月6日に政府の議定No.94-CPを制定し、各部、部に相当する各機関及び政府に属する各機関(以下、これらを単に「部」という)に法制組織を設立させて、対応していこうとしている。上記議定に基づき、各部は、部内に法制局を設立している。この部内の法制局は、自己の属する部の制定権限に属する法規の制定計画の作成、部に属する他の単位によって起草された法規文書の審査、法規文書の起草及び系統化、国又は部の責任範囲に属する法規に抵触する省又は中央直轄市の人民会議又は人民委員会の法規及び各機関制定の法規の施行の停止又は廃棄の提案などの任務及び権限を有する。

(4) 新法規施行に伴う従前の法規廃棄の問題

 民法典の施行(96年7月1日)に伴い、「民事契約法令」を含む6法令が効力を失った。しかし、民事契約違反の際の、違反された当事者の訴権時効(thoi hieu khoi kien)について、従前の民事契約法令第56条は、「契約違反が発生した時点から3年以内に、違反された当事者は、法規が別途規定を有しない限り、裁判所に対して訴えを提起する権利を有する。 当該期間を徒過した場合には、かかる違反された当事者は、訴権を失う。」と規定していた。けれども、この法令に代わり、施行された民法典は、この訴権時効に関する具体的期間を規定していない。ゆえに、最高人民裁判所と最高人民検察院は、96年8月10日付連合通知No.03/TTLNにおいて、96年7月1日以降に成立した民事契約で当事者の一方が違反を有する場合には、法規が別途規定を有しない限り、違反された当事者の裁判所に対する訴権期間の制限を受けない。」旨を注意するよう規定している。この種の問題は、制定前に立法関係者が十分に議論していなければならなかった重要事項である。また、民法典の施行に伴い「ベトナムへの外国技術の移転に関する法令」もその効力を失った。ベトナムの民法典は、技術移転に関する規定を有する法律であるが、その規定は、一般規定であり、本法令の内容を代替していない。さらに、本法令は、施行細則や指導通知などの下位法規も有していた。これら下位法規も民法典の施行に伴い効力を失っている。96年7月1日の民法典施行日から約2年間、従前において存在していた外国技術のベトナムへの移転に関する施行細則が存在せず、民法典の当該規定を実質的に施行できない状況が続いていた。98年7月1日に、政府はようやく「技術移転に関する細則を規定する議定」を制定した。この様な法の空白状態を作ったことは、外国の先進技術導入を促進したいというベトナム政府の政策とは、全く逆行する事態である。

上記の二つの問題例は、外国企業にベトナム法制に対する不信感を与える原因ともなっている。他にも、この様な問題が多く存在している。ベトナムの各国家機関とベトナム法制について意見交換すると、必ずといって、法を遵守する側の者の意識の低さについての発言を聞くが、法を制定する側にも多々問題があるのではないだろうか。さらに、制定権限を持つ国家機関等の職員の遵法意識の問題もある、と考える。

(5)正式な法形式ではない多数の公文書の存在

 先に述べた公文書は、企業や人民に深く関係する内容を規定しており、数多く存在している。しかし、ベトナム公報(日本の官報に相当するもの)に掲載されるものは、希である。この公文書は、法規規範文書制定法所定の法形式ではないため、公布の義務を負わないとも解せるが、企業や人民にとって重要な内容を含むものについては、それらに広く知らしめるため、制定機関は、公布の義務を有するべきではないだろうか。さらに、法的拘束性を持つ内容を含む公文書は、正式な法形式で制定されるべきではないだろうか。

(6)国会で採択される法律(Luat)の内容

 外国投資法にしても、輸出入税法にしても、企業にとって重要となる規定を盛り込ま ず、その法律の施行直前に制定される議定等の施行細則に重要事項を盛り込んでいる。この様な制定方式は、国家の立法権を行使する国会の形骸化を招くと同時に、法律の影響を受ける企業等の経営に悪影響を及ぼしている。

 例えば、法人所得税の優遇税率享受に関する期間の設定や通常関税率表の廃止など。

(7)祖国戦線や労働総連盟などの政治社会組織の法規の起草及び制定権限

 筆者の希望を言えば、これらは、国家機関とは完全に切り離されるべきであり、これらに行政的役割を持たせるべきではない。とりわけ、法規草案提出権や制定前の審査権などを与えるべきではない。

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