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司法制度改革

スチーブン・ボイントン

環境、自然資源、国際法専門の独立弁護士。
日本の鯨類研究所の顧問を長年つとめている。



1. 国際会議、日米交渉を代表構成を見ると、米国、英国の代表団には必ず何人かの弁護士が入っている。裁判ではあるまいし、この法律家達は一体どのような役割を果たすのか、また慣習としてそれが当然なのだろうか。

ボイントン:貴方の質問の意味がよくわからないのだが、条約、法律交渉である限り法律を専門職とする弁護士が主役として参加していることが当然ではないか。欧米でこのような会議交渉に弁護士抜きの団編成をするということとは考えられない。
 私が直接関わった、国際捕鯨会議を例にとろう。第一に理解すべきは、この会議の交渉が1945年に米英のきもいりで創立された国際条約、公式用語は英語、本部は英国に置かれた事実だ。
完全な英米法の枠組みで作られ、政治、商業的にも当時、捕鯨を主要産業と見た両国のイニシアチブが大きい。交渉は国際条約すなわち国際法の解釈であり、闘争であり、妥協でもある。120%法律に準拠している。米国は日本とともに最大の代表団を送り込むが、腕っこきの弁護士が必ず3人程度は参加している。主に所轄官庁である商務省の弁護士で、時には専門分野の要求で民間法律事務所の弁護士が団員として参加する。



2. 日本の鯨類研究所の顧問ということだが、なぜ米国人の貴方が、そして日本代表団は、それでは貴方流の交渉で成果をあげているのだろうか。


ボイントン:今日に至るも日本代表団に法律のプロはいない。私は単に助言者であり、彼らに代わって交渉の矢面にたったり、交渉に参加できるものではないし、意思決定はもちろん官僚が握っている。誰がやろうとかまわないが、問題は日本が不必要に負け続け、その結果日本人が固有の権利であり、今では資源も持続的に利用できると科学的に証明されている、 鯨資源の利用の道を閉ざされている理不尽さを指摘したものだから、日本の鯨類研究所が私の意見をさらに聞きたいということで雇ったのだろう。自分の見解は単純明快、日本は国際条約の解釈や運用を法律上おろしかにし、固有の権利を護ることをせず、条約の手続き整備を米英人の弁護士に委ねて、負けるべくして、負けてしまったものだ。



3.具体例があるのだろうか


ボイントン:1983年、米英は当時独立したカリブ海島国など7カ国を条約に、秘密裏に引き込み、本会議の投票に参加させ数の力で商業捕鯨禁止決定を行った。これは条約違反だ。多くのポイントがあるが、条約は「捕獲枠の決定は科学委員会による証明に準拠するもの」と規定している。この都市の科学委員会報告はどこにも「資源保存に捕獲枠ゼロが必要」とは書いていない。 それどころか、「ミンク鯨6千頭程度の捕獲が適正」と勧告していた。日本にはかかる違法評決への参加拒否、その後の国際司法委への提訴、違法禁止に抗議して条約から脱退」など多くの国際法的に合理的選択肢があったが、これを専門的に考慮した節がない。



4.その後も日本は捕鯨会議に出席を続けている。悲願の捕鯨復活が果たせないでいるが、弁護士として日本に如何なる助言を行っているのか。


ボイントン:実は日本はあの時、ノルウェー等と一緒に条約上の権利である「決定に対する異議申し立て」を行った。これは重大な権利で、これを行使した国は捕鯨会議における当該決定事項に従う義務を免除される。つまり「捕鯨禁止」は日本とノルウェーには当てはまらなくなる。ところが日本は米国との間で二国間交渉を開き、米国の圧力と詐欺的な戦術にはまり、異議申立て撤回した。米国は日本に「捕鯨禁止に従わないと、通商上で制裁を加える」と脅かした。これは政治だ。しかし、実は米国の制裁は「ガット」等米国も日本も加入している、多国間通商条約への違反となる。自由通商を護るガット加盟国が 他の加盟国からの輸入に制限を加えるには厳密な法的枠組みが成立しており、別な条約である「捕鯨条約」に日本を従わせることを目的とした、通商は制裁は明白なガット違反だ。
 かかる現状から、日本の打つ手はいくつもある。ガットへの提訴、捕鯨条約からの脱退、科学技術的な多国間の合意を世界に発表し、自主的な管理捕鯨を進めるなど。現にアイスランドは条約を脱退し、ノルウェーは米国の圧力を法的、政治的議論ではねかえし異議申立てを護り、今では条約に加盟しながら自由な商業捕鯨を続けているではないか。これが日本に対して自分がし続けた助言でもあった。



5. しかし、現状は現状、これからの日本の捕鯨も含めた二国間会議、多国間交渉に成功していくための要諦は。


ボイントン:プロ集団の要請と、これを適材適所で配置すること。国内のことはわからないが、政治も商売も急速に地球化していく現在、国内向けプロ、海外向けプロなどの分類はありえないのではないか。日米通商摩擦のなかで、アメリカ政府、弁護士協会は日本で外国の弁護士にも日本人弁護士と同等に仕事をさせろとの要求はますます高めていく筈だ。迎え撃つ日本が能力のある人材に十分な機会を与え、外国勢などを跳ね飛ばすくらいの厚みと戦力をつけることだ。
 そして、この中から相当数をアメリカなどで国際法の勉強を英語でさせて、大手法律事務所などで実技を研修させる。
法律とともに言葉は主要武器であり、われわれは子供のころから「雪は黒い」と人を納得させる技術を磨かされている。アジアの弁護士でもシンガポール、香港、フィリピンの人達は英語を自由自在に使う。日本人にとって競争相手はアメリカ人だけではない。米国が英米法に基づく司法制度をアジアに呑ませようとしていることは疑いもない。かかる中で日本が前途有為な青年がいかに努力しても上位800人しか法曹試験に通らないなど、こちらから見れば日本の自殺行為としか見えない。兵隊戦士、企業戦士に加えて、いまや法律戦士の質と多寡が国際条約、会議、交渉などでの優劣を決めていることを知るべきだ。


◆ ◆ ◆



3人の弁護士の話に共通する第一は、この国が英国植民地時代、独立宣言、世界一極超大国化を通じて、司法制度が、国の礎、運営の手段として骨肉として機能しているとの主張である。次に彼らの発言は「パックスブリタニカ」を受け継ぐ「パックスアメリカーナ」を土台とし、英米法による世界の支配ということを当然視しているように感じさせる。 かれらはそれぞれ異なる分野で活躍するごく平均的な弁護士で、世界支配だの、日本と競合だのといった野心などこれっぽっちもない。それだけに、今の米国による一極派遣を背景とした英米司法制度の重みと、対応を怠るどころか、日本政府の規制管理でさらに日本の競合力が劣化しかねない、といった危惧をもよおさせる彼らの見解である。


聞き手
ギャラクシー・システムズ株式会社 代表
中村忠彦氏
在ワシントンD.C.

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