1.社会保険労務士業務の本質 社会保険労務士制度は、その発生と法制度化の歴史的過程において、事業主のための手続き代行から発展して来た面のあることは否定出来ない。
これは、書類作成の技術と行政の窓口規制へのむずかしさから業として成立し、行政の側としても手続き処理の効率の面から、これを行政と事業所とのチャンネルとして活用し、これに伴う専門職としての権威は自然発生的に付与されて来たといえる。社会保険労務士法第2条の提出代行は、本来、一般社会の通念としては提出行為の代理であるにも拘らず、「提出代行」という言葉としては熟していない観念を法律行為と規定しているのは、社労士業務の成立の歴史的な事情が尾を引いているためである。
しかし、現在の社労士の業務を考えるには、このような視点ではその本質を見誤るものといわなければならない。すなわち、社会保険労務士法第2条に規定されている関係法規に基づく記帳
|
|
の実態は、労働基準法に規定する賃金台帳の調整が中心であり、これはいわゆる被用者四保険の円滑な施行に欠かすことの出来ないものであると同時に、労働契約の遂行の記録として、特に中小零細企業における、不安定な労働契約関係に深く関わった業務であることを知らなければならない。
ともすれば、社会保険労務士は主に事業主の委託を受け、顧問報酬を受けているが故に、事業主の意志の代弁者となっているものではない。これは、民事法の原則である依頼者・被依頼者の関係における信義にもとるところではなく、わが国の労働契約関係における法制度と蓄積された労働慣行下でその事業所の最良の選択のための行為に他ならない。
このような事案についての判断は、労働関係に関わる一人ひとりの労働者、その家族の直接の利害にも関わることで、関係帳簿の記帳という事務は法第2条に規定する外形のみでは理解できない、国民の生活に深く関わった業務
|