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「食料・農業・農村基本法案」の概要とその目的

農業基本法の制定の背景


「現行法が制定されて、今年で38年になります。時代が変遷し、現行基本法では対応が困難になっている面が生じているということで見直しを進めてきました」
 平成9年4月に発足した「食料・農業・農村基本問題調査会」(会長・木村尚三郎)は新農業基本法案の中身や改革方法について議論を行った。50回近くの会議で、議論を重ねたものを平成10月9月、「食料・農業・農村基本問題調査会答申」として発表している。これは新農業基本法の法制的な中身を検討する材料となるものだ。
 この答申を踏まえ、今後の具体的な農政改革の方向について、政府、与党間で行われてきた議論を集約したものが平成10年12月に農林水産省が発表した「農政改革大綱・農政改革プログラム」である。
「これらを今年、法案の形にまとめて国会に提出して、ご議論いただいているところです」
 今回、新しい農業基本法が制定されることになった背景として大きく三つに分けられる。


[1]食料自給率の低下

 昭和35年度に79%だった日本の食料自給率(供給熱量自給率・カロリーベース)は現在では41%にまで低下している(グラフA参照)。
「現状として国民の皆さんが不安を持つほど、日本の食料自給率は大幅に低下しているのですが、その最大の原因は食生活の変化にあります」
 日本の所得水準が向上して、食生活の高度化・多様化が進んだ。
農業の基幹的な作物であるコメの消費が減り、畜産物や油脂のように輸入農産物を必要とする食料の需要が増加した。
 畜産物は輸入飼料に依存する部分が多く、自給率という観点からすれば17%しかない。また油脂の主な原料は大豆だが、これも海外に90%以上を依存している。そのような食生活の変化を背景に、急速に食料自給率が下がってきたのである。


「食料自給率の分母は現在の食生活です。それがどのレベルが適正なのかは議論が分かれるところだと思います。これを農林水産省が勝手に決めるわけにはいきません。ただ食料自給率を少しでも上げる努力は大切です。不測の事態になった場合に、国内でまかなっていく基盤になるわけですから」
 供給熱量は昭和40年度で1人当たり1日2,459キロカロリーだったが(グラフB参照)、平成9年度で2,638キロカロリーまで増えた。内訳をみると、コメが1,090キロカロリーから651キロカロリーまで落ち、代わって畜産物が157キロカロリーから435キロカロリーに増えている。


 現在、日本が輸入している食料を作るために必要な作付面積を算定すると、約1,200万ヘクタールとなる。しかし、日本の耕地面積はわずか491万ヘクタールしかない。つまり日本で消費される食料を生産するにはトータルで1,700万ヘクタールの農地が必要ということになる。 どのような方法をとって生産性を上げようと、現在の耕地面積では、日本で消費される食料のすべてをまかなうことはまったく不可能だ。今後、日本人の食生活が抜本的に変わるか、人口の激減でもない限り、根本的な対策はないことになる。


「日本の耕地で供給可能な熱量は1人当たり1日1,760キロカロリー。戦後間もない頃より低い水準です。それも熱量効率が高いものに生産を転換した最大限の数値としてそれだけなのです。備蓄している分をあわせ、どうにか2,000キロカロリーをまかなえるというレベルです。 
 行政としては国内生産の振興と同時に安定的な輸入を確保することに努めていますが、
不測の事態が発生したとき、例えば万一輸入がゼロになったとしたら、食生活行動を変えて、美味しさよりもカロリーを優先する。国民の皆さんにもこのような現状を理解していただけなければ、乗り切れないことになるでしょう。行政は、そのような現状をもっとPRしていかなければならないと思います」


[2]農業者の高齢化・農地面積の減少など

 農業者が高齢化してリタイアし、また農地面積が減少しつつある。農業就業人口は昭和35年当時で1,454万人。それが平成10年には389万人にまで激減し、65歳以上人口は昭和40年の13%から 平成10年には48%と半数に近い割合を占めるようになっている。耕地面積は昭和35年には607万ヘクタールあったが、平成10年には491万ヘクタールにまで減っている(グラフC参照)。


[3]農村の活力の低下

農村の活力の低下という現象がある。中山間地域で過疎化が進んでいる。農村に人が住まなくなれば、当然のことながら地域社会も営んではいけません。農業を行われる前提がなくなってしまうことになる。
 これらの社会情勢が変化する中、注目されるようになってきたが農業・農村の持つ多面的機能だ。
「農業・農村の持つ多面的機能、近年つまり国土保全の機能ですとか、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承などが広く注目されるようになっています。新しい農業基本法はこういした国民の皆さんの要請に応えようとするものです」


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