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カテーテル特許訴訟の逆転劇 米国特許弁護士 服部健一
米国特許弁護士 服部健一

隠された情報

 ほとんど徹夜で資料要求書を作ってヤマザキ・メディカル社へ送り、数日もすると同社の回答が寄せられた。案の定、すべての質問と要求に対して拒否の回答をしてきた。

 ベルベスコスとワーグナーが書類を見ながらため息をついた。
「まるで答えになってないな」
「全面回答拒否か」
「やはり裁判官に強制提出命令を要求するしかないな」
「そいえばケンのほうはどうなったんだろう」
 ベルベスコスがワシントンに電話を入れる。
「やあケンか。厚生省の申請書のサンプルはどうなった?」
「ああ、今日着いたばかりだ。ちょうど今電話を入れようとしていたところだ」
「何!手に入ったか。そいつは素晴らしい」
「ということはヤマザキ社は提出拒否したんだな。」
「その通りさ。で、どんなことが記載されているんだ?」
 ベルベスコスは気が気でないらしい。
「カテーテルの構造のすべてだな。材料、構造の説明、製造方法・・・いろいろあるな」
「グレート!で、何か変わった情報はないか?」
「うん、カテーテルが形状記憶合金でできていることは知っているね。それでは、その形状記憶合金のワイアーの周りのコーティングはどうだ?」
「コーティング?」
「何だそれは?」
「こいつは人間の血管の中に入って行くだろう?」
「ああそうらしいな」
「そんなことしたら痛いと思わないか」
「そりゃあそうだろう。でもその時は麻酔をかけるんじゃあないか」
「その通り。でも血管の中を滑らかに動く必要があるんだ。だから形状記憶合金という金属のワイアーの周りに滑らかなコーティングを被覆する必要があるんだ」
「なるほど」
 ベルベスコスもワグナーもどうやら問題がわかりかけてきた。
「特許にはそんなコーティングのことは何も書いてなかったと思う」
「そうか、ヤマザキ社はコーティングの情報を隠していたのか!」
「いや、そこは本物の申請書に果たしてコーティングが記載されているかによる」
「記載されていないことはまずありえないな。どうやらベストモードを開示していないことは明らかだ」
 ベルベスコスがうなるようにつぶやいた。
「そうだ。それが本当かどうかわからないが、少なくとも厚生省の申請書を強制提出させればそのすべてがわかる可能性がある」
「そういう可能性があるなら裁判官も強制提出に賛成するな」
「その通り」
「よし!また一歩前進だ」
「ところで強制提出命令願いは裁判所にいつ出すんだ?」
「ケンがそのサンプルを送ってくれればすぐにでも出せる」
「OK、じゃあオーバーナイト便ですぐに送ろう」
「そうしてくれ!」

 こうしてサンプルを入手するとベルベスコスは直ちに裁判所に強制提出命令願いを提出した。そして間もなく裁判所でヒアリングが開催された。ヤマザキ・メディカル社のシュナイダー弁護士は当然のごとく強制命令に猛烈に反対した。これは特許の訴訟で厚生省の申請書とは一切関係ないという理論だ。しかしパーカー裁判官はベルベスコスの意見に賛同した。ベストモード違反の立証の可能性があるからだ。シュナイダー弁護士は苦虫をかみつぶしたような表情をしていた。アメリカの訴訟では訴訟に直接関係する情報および立証の可能性につながる情報はすべて開示しなければならない。ヤマザキ・メディカル社の10万枚に上る情報の中にたった一枚の申請書のコピーがあったことがこの結果をもたらしたのだ。ここにアメリカ訴訟の恐ろしさがある。

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