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米国特許弁護士 服部健一 |
ベストモード ベストモードがこの裁判で大きなカギを握るだろうという私の提案に一同は賛成した。近年は製造物責任が特に世論でうるさいことも一因となり、厚生省の製造許可申請の中には、詳細なカテーテルの構造が明らかになっているであろう。問題は、重要なデータが記載されていると考えられる厚生省に提出した製造許可願をどうやって入手するかだ。私は次の仕事が控えているため、とりあえずインディアナポリスを後にした。 インディアナポリスではベルべスコスらが、今後の対策に頭を悩ませていた。 訴訟では関連する資料はすべて提出する義務があるが、 関係なければ拒否できる。その場合は裁判官に強制提出命令を要求するまでだ。この場合は当然関係するが、果たして裁判官が関連性を理解するかだ。 「そこは賭になるな」 ベテラン訴訟弁護士のエムハルトがゆっくりコーヒーをすすりながらつぶやいた。 「裁判官を説得する方法を考えなきゃいかんな」 ベルベスコスがにらむように言い、手を強く握りしめた。 「どうしたらいいかな?」 全員がじっと静かに考えだした。 「なにしろわれわれには日本の厚生省なんて全然わからないからな」 「ケンに相談するか」 誰とはなしにそういうこになり、ベルベスコスが素早く電話をかけた。 「もしもし、ケンか。俺だ。ベルベスコスだ」 「ああ、スペロ(ベルベスコス)か、何かあったか」 「うん、厚生省の件だ。ヤマザキ社が提出拒否したらどうしたらいいと思う?」 「裁判官に提出強制命令を出させるしかないな」 「われわれもそう思う。問題は裁判官が同調するかだ」 「う〜ん、それは難しい問題だ」 「だから相談しているんだ」 「まあそうだろうな」 「ケン、裁判官は訴訟に役に立つと思えば強制提出命令を出すんだ」 エムハルトが割って入った。 「役に立つことね・・・」 「その通り」 「こういう案はどうだ。別件のカテーテルの本物の厚生省申請書をサンプルとして添付するんだ」 「それで?」 「そこにはカテーテルのすべての構造が開示されている。そうすると裁判官もそこにはすべての情報があるからには本件でも提出させようという気になるだろう」 ベルベスコスを含む全員が顔を見合わせてうなずいた。 「そいつは面白い。それでいこう!」 ベルベスコスが興奮して叫んだ。 「ケン、どうやってサンプルを入手するんだ」 エムハルトが冷静に聞いた。 「私には日本のつてはいくらでもあるさ」 「そうか、おまえは元日本の通産省の役人だったな」 「まあそういうルートは使わない。あくまで正規ルートでいく。ヤマザキ・メディカル社の元の部長の出石氏に差し支えないサンプルを送ってもらうさ」 「なるほど。サンプルなら彼に頼んでもまったく問題はないということか」 「それを裁判官への強制提出命令に添付するんだ」 「ケン、それを入手するのにどのくらい時間がかかるんだ?」 「それは出石氏に聞かなければまったくわからないな」 「ようし、わかったらすぐに知らせてくれ」 「ああ、わかった」 ベルベスコスはワーグナーとズレイタスを引き連れて自分のオフィスへ向かった。おそらく彼らはほとんど徹夜をして書類提出要求の書類を作成するのだろう。ロケット・ドケットのバージニア州東部地区裁判所ではいかなる遅滞も許されないのだ。 |
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